ダイノジ 漫才

ダイノジのライブのタイトル。
タイトルの割に、コントが半分以上だったのは不思議な感覚ではあったのだけれど、人生漫才という言葉の響きそのものが、彼らの生き様と共鳴しているように思った。


ここ数年に鑑賞したライブ(50本くらい)の中でも、トップクラスの内容だった。何がトップかというと、鑑賞後の満足感。個別の要素をいいはじめると、ライブ個々の特性に左右されてしまうので、なかなか比較が難しい。でも、総合的な満足感は比較できるし、このライブはとても高かったと言い切れる。



何よりも良かったのは、ダイノジの真剣さだ。魂込めてライブをやっている。死に物狂いで人気を得たいはずの若手芸人たちと比べても遜色ない、というか上回っている。迫りくる勢いを生み出していたのは、なんだったんだろう。

ひとつは、彼らの演技のうまさ。すべてのネタで演じられるあらゆるキャラクター、どれひとつとっても手抜きを感じなかった。たとえとして正しくはないかもしれないけど、ネタを見ているときに感じたレベル感は、イッセー尾形の一人芝居の質に近い印象だった。彼らの一挙手一投足、セリフのトーンやイントネーション、視線や眉の動かし方といった微細な表情の付け方、あらゆる要素で世界観に引き込まれた。


もうひとつは、ネタの密度。こんなに「隙間(暗転)」の少ないライブ、みたことない。ネタのつながりがある内容なので、間をあけずに進めた方が良いという狙いもあったのかもしれない。でも、あんなに絶え間なくネタをやり続けるのは、相当の実力と根性が揃っていないとできないと思う。

しかも、ネタの合間の時間があるときでも、爆笑せずにはいられないブリッジ映像(真・声に出して読みたい日本語シリーズ)が延々と流される。さらには、ライブはたっぷり3時間のぶっとおし。正直、観客としては、振り落とされないように必死だった。

※ちなみに、この「声に出して読みたい〜」、こんなに大爆笑したネタはひさしぶり。このネタのDVDでたら買うと言い切れるくらいはまった。


そして、彼らに集まってくる観客も大きな要素だったと思う。僕も知っている方だとは思うのだけど、会場の多くの観客が僕よりもダイノジに詳しい人たちだった。小西さんとか、盛り上がり方が半端じゃなかった。さらに素晴らしいのは、こういう観客が揃うと内輪ウケの空気になってしまいがちなのだけど、詳しくない人にとっても居心地のいい雰囲気になっていたと思う。こういう観客をそろえられるのは、まさにダイノジの魅力そのものなんじゃないだろうか。

これは、ライブ終わりのあいさつの姿勢から感じたことでもある。ダイノジのふたり、最後に観客に向けて頭を下げて礼を示す様子は、みていてジーンとする。このライブにかける思いにあふれている。それは自己満足のためではないというのが、ひしひしと伝わってくるのだ。だから、感動する。



「知る人ぞ知る」に偏ることなく、ただひたすらに「面白いこと」を追求している。そして、しっかりと笑わせる。ときにはジーンとさせ、ときにはあきれさせ、最終的なライブの満足度が最高になることだけを突き詰めていた。そんなライブだったと思った。



今回のライブ、途中で思ったことがある。それは「伊坂幸太郎の作品」的な仕上がりになっていたこと。ライブ終わりに配布されたサムライ新聞を読んでみても、(伊坂作品という言葉はなかったが)それに類するような表現があった。
お笑いのライブでこうした作り方を継続することができたら、ダイノジのライブはさらにプレミアが高くのかもしれない。


ただ。
そうはいっても、ダイノジには、そういうポジションには行ってほしくないという、ファンとしてのわがままな期待もある。本人たちにもそういった意向はあるようなので、いい感じで続けていってもらえると、いちばんうれしい(^_^

次のライブがいつになるのかはわからないけど、次回も絶対に参加する。




ところで、ライブ中、「4年ぶり」という言葉がでてきていたのだけれど、「3年ぶり」じゃないかと思うのだが、どうなんだろう。エアギター世界チャンピオンになった後のライブで、優勝した時の実演をしてくれたのは3年前だったような気がする。
ま、そんなことは、どうでもいいか。それくらい面白いライブだったのだから(^_^




あぁ。あと、最後のシンバルキック、あれも最高だった(^_^


俺道 [DVD]

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HAPPIER

HAPPIER―幸福も成功も手にするシークレット・メソッド ハーバード大学人気No.1講義

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「幸せになりたい」

こんなセリフ、以前はこっぱずかしくて言えなかった。でも、今はちがう。実際、少なからず人目に触れる「場(書評blog)」にさらすことに、抵抗はまったくない。幸せを願い、求めることは、とても素晴らしいことだ。心からそう思える。

そうした思いをもてるようになった最大のきっかけが、「HAPPIER」を読んだことからでした。


この本では、この質問に対する著者の回答、「人はみな幸せになることができる」という信念が貫かれています。しかも、上段から概論をふりかざしているわけではなく、人々の日常に根ざして考え、行動するための内容が記されています。

ハーバード大学で人気No.1だったという表紙に興味を引かれて手にした本書でしたが、そんな触れ込みはまったく関係ないと思えるほどに。


■幸せについて真摯に見直すきっかけ

私たちは今、こんなに豊かになっているのに、なぜ幸せではないのだろうか?

この本の冒頭部で、著者から投げかけられる質問です。僕自身、ものごとを悩んだり考えたりする中で、たびたび疑問に思いつつ、そして答えと思えるところまでたどり着けないものでもありました。

そんな僕が本書を読んですっきりできたのは、

 目的地に到着することをたたえるシステムが定着している
 目標を達成したときに感じる開放感を幸せと誤解する

という内容のおかげでした。
いずれも斬新なアイディアではないかもしれませんが、幸せにつながらない要因として「根っこ」にある大きな要素だと思いました。だから、心に響いたのだと思います。


そして、もうひとつ。幸せの捉え方について、本書全体にわたって軸となる考えがあります。それは

 幸せは喜びと意義の同時体験
 幸せは究極の通過

幸せのイメージを、誤解なく理解することができる素晴らしい定義だと思います。


さらに、

今までよりも幸せになるということは、何かを変える必要があります。

という当たり前とも思える壁があります。しかし、とても難しい。
これを乗り越えるには「習慣化」がとても重要で効果があると説かれています。


【自分を振り返ると…】
僕は本書を読んで、2つことを習慣にすることにしました。それは「日記」「部屋の掃除」です。決めた時点では「それが幸せになるかどうか」はよくわかりませんでした。ただ、いずれも直感的に効くだろうと思ったので、取り組むことを決めたのでした。



■幸せにつながる目標との付き合い方

本書では「目標設定の意味合い」をこのように説明しています。

(目標設定を通じて)人が決意を固めた瞬間、すべてがその人のために動きだす
目標を達成することよりも、それを持つことのほうが重要


では、目標はどんな役割を果たすのか。それは「フロー状態」を生み出すこと。スポーツの世界でいう「ゾーン」といった方がよく知られているかもしれません。
フロー状態とは「行っていることに完璧に集中していて、気を散らされることが無い」かつ「大きな喜びを体験しながら、よい結果を出す」ことができる状態。

しっかりとした目標が定められているからこそ、没頭ができる。だからこそ、フロー状態に到達することができ、ひいては喜びも成果も手に入れることができる。


ここでは、目標設定に当たって大切なことも細くされています。それは「難しすぎもせず、易しすぎもしない」ということ。
現実では「不安につながるプレッシャーに満ちた環境」や「退屈さにつながる、努力の不要な環境」が与えられたり望まれたりすることが多いように思います。


【自分を振り返ると…】
目標設定は、とても重要だと思います。僕自身が設定したのは
 ・日記…毎月25エントリー以上書く
 ・掃除…毎週3日以上、床掃除をする
 いずれも「できるけど、簡単ではない」という按配をうまく押さえられたものだと思います。

 興味深かったのは、「目標を進化させたくなる」ということ。一定期間を続けていると、目標そのものが「易しすぎない」という条件から外れてしまいます。自分の経験で「これは良い実感だなぁ」と思ったのは、「目標を高く設定しなおしたくなる」というものでした。自然にふつふつとわきあがってくる。結果的に、日記は毎日、掃除も毎日という設定に。特に日記については、1000文字以上を毎日書くというところまで上がっていきました。

世の中では目標というと「ノルマ的に与えられるもの」という印象もあると思います。自分自身そういう感覚が強くありました。しかし、実体験として「高くしたくなる」という感触を覚えられたことは、そのこと自体に喜びを感じられるものでした。



■幸せをつかむために揃えておくもの

目標を設定したからには、それをクリアしていきたい。これを適切に乗り越えていくにはどうしたらいいか。

本書に示されていたもので僕が特に印象に残ったものが3つありました。「勇気」「無条件の愛」「幸せブースター」です。

勇気とは、怖いけれども前に進むこと。
無条件の愛とは、相手のコアセルフ(性格的・能力的・欲求的特徴)を愛しているかどうか
幸せブースターとは、喜びと意義をもたらしてくれる数秒から数時間で行える活動

勇気によって機会を得て、無条件の愛(を通じた人間関係)によって喜びが倍増し、幸せブースターで前に進み続ける意欲とエネルギーを補充する。この循環をまわすことができれば、幸せにあふれた時間がだんだんと増え続けていくのだと思います。


僕が本書でもっともジーンときた言葉があります。

私たちが内側でもっとも恐れているものは何かをうまくできないことではなく、私たち自身の果てない可能性です
自分が体験している良いことを素直に喜べないことは、不幸への道を選択すること

幸せになりたいと思っているのに、そうでないことに目を向けてしまう。それは「その人個人の問題」ではなく、人が本来的にもっているもの。これを心から受け止めることができたとき、幸せが個人のものではないことを本当に理解できるのだと思います。

私たちは、他の人たちを助ければ助けるほど幸せになります。
自分が幸せであればあるほど、他の人たちをもっともっと助けたくなるのです。

この言葉を心からいえるようになる。それが、人生を通じて目指すことなのだと思いました。


【自分を振り返ると…】
日記を毎日書くというのは、多少なりとも勇気が必要でした。宣言するからには絶対に達成する覚悟をもっていたし、本当に毎日書くという制約にするつもりだったからです(翌日以降に前日以前分を書いてもOKとはしなかった)。

無条件の愛というのは、日記ではそれほど…(^_^;
ただ、安心して取り組める環境があったことは事実です、カウンターが上昇する様子、コメントやトラックバックされたものは、好意的なもの。実際にあったときに「あのblogに書いてあったこと?」とか「あれは面白かった」といった反応をもらえる場だという実感があったことで、安心して取り組めたのだと思います。

日記のよかったところは、それ自体が幸せブースターになることです。あとは、並行して「映画」や「お笑い」を続けていて、それがblogと相乗効果みたいに自信になることもあり、エネルギー補充ができたようにも思います。


結果、途中途中で変化していったものも含め、すべての目標を達成することができました。とはいえ、この時点では「他の人を助ける」という段階にはたどりついてはいません。このあたりを目標として活動しているのが、今年度になります。

こうして書評blogを書き、応募しているのも「他の人の助けになったらいいなぁ」という期待をもっていることが背景にあります。受賞できるほどに評価を受けられればそれに越したことはありませんが、まずは何よりも、この素晴らしい本を、必要としている誰かにつなげるきっかけを担えたらいい。そんな風に思っています。


HAPPIER―幸福も成功も手にするシークレット・メソッド ハーバード大学人気No.1講義

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セブンティーン・アゲイン

映画です。ザック・エフロン主演で話題となっていた作品。
学生時代に夢見ていたような生活にたどりつけなかったおっさんが、ある日突然に17歳になってしまう(過去にタイムスリップしたわけではなく、自分の肉体だけが若くなった)。これを機に、失ったと思っていた自分の人生をやり直していくという、ちょっとファンタジックなストーリー。

予告編でみたときは「アイドル映画」的な内容かと思ってあまり見ようとは思わなかったのだけど、意外と評判が良いようなので興味が高まっていた。そうこうしているうちに上映期間が終わりそうな時期になってきているので、先日観に行ってきたのだった。


この映画、ただのアイドル映画ではない。
冒頭ではファンタジー的な紹介をしたけれど、実際はもっとハートフルなものだ。ただあたたかいだけではなく、自分の人生や家族について、そして本当に大切なものは何か。ふと親身になって考えてみたくなるように思わせてくれる内容だった。


僕がこの映画でとても好印象だったシーンをいくつか書いてみる。

ひとつは、17歳に若返った本当の理由に気づく場面。
自分の人生をやり直すことを、「夢半ばで諦めたバスケに取り組むこと」と理解していた主人公のマイク。しかし、いくつかの出来事に巻き込まれる中で、自分の本当の役割に気づく。そして、それは、本人にとって何よりも大切な「人生をやり直すこと」に通じるもの。
この役割(目的)を理解した時から、すべての意識と行動が一貫性をもって変化していく。おっさんだったときには失っていたものを取り戻すかのように。
しかも、その動機は、あふれんばかりの愛情からきている。人が何かに思い至って決意するというのは、こういう感じなんだろうなぁと思えるシーンだった。


もうひとつは、マイクが同級生(といっても、自分の子供と同い年)に対して、子供に対する愛情の芽生えを語った場面。
高校での授業で「性」を取り扱うクラスになったときのこと。悪ノリする子供たちを見ていたマイクは、「まだ早い」と諭す。最初はただの頭の固いおやじ的な雰囲気で見られていたが、なぜそう思うようになったかを語っていた内容がとても素晴らしかった。

マイク自身、高校生の時に子供ができてしまったためにバスケを捨てた。そうした背景があった上でもなお、はじめての子供に出会えた瞬間に感じた言いつくせぬ思い。これ以上のものは思いつかないくらいの愛おしさを感じたこと。
ひとつひとつの言葉も、それを語る口調やしぐさ・表情、すべてがよかった。



実は、この作品、全体を通じて、物語には目新しくないものが多い。展開も読めるところも多いし、ご都合主義的な展開もいくつもある。なんとなく、大映ドラマのにおいに近しい感じもあった。

しかし。それでもなお、この映画の後味は素晴らしい。後味だけではなく、見ている過程のほとんどで、心地よさに包まれる。

DVDが出たころに、もう一度見てみたいと思った作品でした(^_^



さて。この作品。今をときめくザック・エフロンが主演しています。
この映画を見る前のザック・エフロンの印象は、それほどインパクトがなかった。ヘアスプレーを見たときは、役柄的にも演技的にも、ちょっと弱々しさがあったし。

しかし。この映画をみて、これはすごいなぁ、と。少なくとも、鑑賞後にあちこちから「ザック、かっこよかった」という声がきこえてきたのは確か。

実際、かっこよかった。そういう役柄と演出が影響しているとは思う。しかし、それだけではない。実際のところ、トム・クルーズのようなあからさまなハンサムという感じでもないと思う。でも、今回の映画ではかっこよかった。少なくとも、印象がいいのは間違いない。


ザック・エフロンのいちばんの魅力は「敵がいなそう(少なそう)」な雰囲気にあるんじゃないかと思った。あれだけクリーンな印象で役を作って演じることができるのは、なかなかにすごいことだと思った。

かっこいいキャラクターをやるとどうしても鼻につく感じがでてきてしまったり、かといって弱さを盛り込むとあざとさが見えたりしてしまうものだ。しかし、今回のザックのキャラクターからはそういった要素はあまり感じられなかった。

このままいくと、いつぞやのマイケル・J・フォックスくらい活躍しそうな感じがしました(あるいは、上回るのか…?(^_^)


セブンティーン・アゲイン 特別版 [DVD]

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ハイスクール・ミュージカル/ザ・ムービー [DVD]

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シゴタノ!読書塾vol.2 堀賞受賞!


先日(5/13)書きましたblog「[書評]マイクロソフトでは出会えなかった天職 僕はこうして社会起業」をシゴタノ!読書塾vol.2に応募したところ、堀 E. 正岳さんから賞をいただきました。

ありがとうございます!!!

受賞を期待して応募しましたが、まさか本当にいただけるとは。びっくりしながらも、大いに喜びました。コメントやトラックバックもあまりなかったようなblogなので、シゴタノのようなメジャーblogから紹介を受けられたのは、本当にありがたい(^_^


これまでは、blogのコンテンツ比率的には書評が少ないのと、読み手からの「アクセス数」以外の反応が見えないこともあって、書いた内容の評価をどうみたらいいか少し迷っていました。
※もともと、書評は自分の備忘のために書いていた意味合いも大きかったので、そもそも読み手にとってはあまり価値が高くないものになっているのかもしれないなぁ、と。

そんなこともあって、最近は(特に書評の)更新頻度が落ちてしまったり。



また、同じタイミングで応募されたぺってぃさんのblogでも紹介していただけました。次回、楽しみにしています(^_^



今回の受賞で、書いた内容に価値を感じてもらえる人もいることを実感することができました。これは、とても大きい。こうしてblogを書いてきた甲斐があったと思えました。

せっかくの機会なので、これからはもう少し更新頻度を上げていきたいと思います。とはいえ内容も伴うものにするために、まずは月に2〜3冊を目標に。

重力ピエロ

伊坂幸太郎原作の映画です。


鑑賞して思ったのは、アイデンティティーとは何か、何によって定まるのかということ。

物語では、複雑な家庭環境と社会環境のなかで苦悩する家族像が描かれている。予期せぬ偶然によって幸福な家庭を授かり、突然の出来事によって辛い枷を与えられる。しかも、その枷は、家族にとっての幸せでもある。

苦しみの根幹に立たされたとき、人は自分自身を何によって支えればいいのか。自分自身のよりどころは、「個」なのか「属」なのか。


全体を通じて、悲しさと切なさが沿い続ける少し重めの内容なのですが、そんな中でも明るさと素直さを忘れずにいる若者と大人の姿が描かれています。それは、作品中に出てくる「本当に辛いことこそ、明るく伝える」というようなセリフからも伝わるのではないかと思います。



この作品、何よりもまず、タイトルにつかまった。「重力ピエロ」って、ちょっとやそっとではでてこない。センスを感じずにはいられなかった。重力とピエロ、言葉の微妙な飛び感と、ぐわっと世界観や背景やストーリーが一瞬にして広がっていく言葉だ。簡単なものをふたつ組み合わせただけでこれだけのエネルギーを生み出すのは、なかなかに難しい。

しかも、この言葉がストーリーと直結しているわけでもないのだけれど、まったく別なものでもない。このさじ加減の絶妙さ。感服しました。


重力ピエロ (新潮文庫)

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今田耕司

今週の「しゃべくり007」、ゲストは今田耕司だった。

この番組をみてて、今田はやっぱりすごいなぁと尊敬しなおした。何がどうすごいのかというのをまとめてから日記に書こうと思っていたのだけど、なかなか進まなかったのでとりあえず書いてしまうことにする。


今田について何よりも感心するのは、「その場を楽しく盛り上げる」ことに集中しつくしていること。今田がモニターに映っている番組は、そのほとんどが「楽しい」笑いに包まれている。今回の番組でも、その雰囲気はたくさん感じられた。


今田ならではと思うすごさ、いくつか思うことがあった。お笑い芸人としての、腕っぷしの強さが半端じゃないのは、もう言うまでもないので、それに付随する部分で考えてみる。

※腕っ節の強さの種類について考えるのも面白そうなのだけど、今回は割愛。ダウンタウン松本や島田紳助のように「たとえ」のうまさが際立っている、あるいは「たとえ」がうまい上に強烈に独特な視点から切りだしてくる関根勤、などなど。いろいろと要素はあるのだけど、今田はまた違う強さを持っていると思う。
 なんとなく思うのは「反応が速く強く、かつ正確」、それと「(反応を支える)先読みする力と展開力」、それと「お笑いの力量を測る目利き」がずば抜けて高いといったあたりでしょうか。


ひとつは、すべてのことを拾う姿。基本的には、まわりにいる人たちが活きるように話を振る。自らも芸人オタクだから、どういう振りをすれば輝くかを知っていて、実行するという感じだろうか。
また、まわりのタレントが無茶ブリしてきても、必ず拾って笑いにつなげてしまう。スルーしたり引いて笑いを取ることもできるかもしれないが、基本的にはあたたかく受け止めてあげるというスタンスなんじゃないだろうか。しかも、それできっちりと笑いをとるから、振ったほうも助かる。


あと、人を傷つけるようなことをほとんどいわない姿勢もいい。いいことしかいわないわけじゃないけど、少なくとも「人が傷つくようなことをいって、(自分の手柄として)笑いをとって終わり」みたいなことは絶対やらない。活躍している人はさすがに露骨にやることはないけれど、今田ほどこの要素が薄い人も珍しいと思う。

ただし、自分を(ないしは、ツーカー以上の仲にある人を巻き込んで)思いっきり落とすことはある。自虐の笑いは度が過ぎるとあざとさが見えてしまうのだけれど、これも今田の場合はほとんど感じさせない。たぶん、落とし方が「アホな少年」の方向にもっていくからじゃないかと思ったりもしたが、どうなんだろう。
いずれにしても、今田の稀有な才能の一要素ではあると思う。



そして、何よりも「お笑いが大好きだ」というあからさまに放出される雰囲気。
面白い場にいることを誰よりも楽しんでいる。その場が面白いかどうかではなくて、その場にある面白さを見つける、あるいはその場で作るという意識。大御所といっしょになるのを煙たがる芸人も多いが、今田の印象は「どんどん絡んでいかないともったいない。面白いんだから」という感じ。目指していることが「自分の思い通りにできること」ではなく、「一分一秒でも多く面白いと思える時間を増やす」ということにあるのかなぁ、と思った。



といったことを考えていて、自分が目指したい姿が今田の要素にけっこう多いんじゃないかと気づいた。ということで、ちょっと今まで以上に今田を観察してみようかと思ったのだった(^_^




この番組でいちばん印象に残ったのは、今田に対して「いまいちばん面白い芸人は?」と質問したときの回答。

今田の答えは・・・・









バカリズム



この場のこういう流れの中で、バカリズムと答えられる今田をまた尊敬したのだった。

バカリズムはコンビのころはそんなに好きではなかったのだけど、ピンになってから(特に「トツギーノ」をやるようになってから以降)は相当に面白いと思う。「○○な話」にでてたときにトークもネタと同様に独特の面白さがあることを知って、これはかなり力があるのだなと感心したのを思い出した。

マイクロソフトでは出会えなかった天職 僕はこうして社会起業家になった

もともとはマイクロソフトの社員(しかも、飛ぶ鳥を落とす勢いがあった頃の)であったジョンが、休暇をとって旅行にいったネパールでの出来事をきっかけに、世界のあらゆる人たちに学びの機会を提供することを自らの使命として取り組んでいく様子が描かれている。

率直な感想は、とてもいい本。「読んだ甲斐があるなぁ〜」と思える内容。社会起業家が書いた本は、他にも読んだことがあった。そのときも面白かったのだけど、僕の趣味としては今回読んだ本の方が好みに合う。共感と敬意にあふれた読後感だった。感動して終わるのではなく、アタマとココロの中に何かを植えられたような感覚が残る。自分の人生に、一歩近づいたような気もする。


この本、印象に残ったことがたくさんある。僕の手元にある本は、たくさんのページが折られた状態(折り目が折り目の役割にならないくらい)。


■社会の期待に背く

人は、多くの場面において、社会の期待にこたえるように選択し、行動する。それは、社会適合性の高さであるのかもしれない。しかし、それが本当に自分にとっての幸せかどうかはわからない。自分が本当に求めていることを知ったとき、それが社会の期待に反するだったら・・・。
筆者のジョンが遭遇するのは、まさにこの事態。マイクロソフトという大企業のエリートに属する人間が、収入の見通しさえつかない世界に入ろうとする。そんなとき、どういったことに立ち向かうことになるのか。


最初に現れるのは「世の中的な価値を見限る」こと。
たとえば、十分に裕福な暮らしを維持し続けられるだけの収入。あるいは、多くの成功者たちが集うパーティーに参加したときに自己紹介するときの地位・肩書き。そうしたものが一切合財なくなる。こうしたものを捨てなければならない事実に直面する。
即物的に限ったことではなく、人間関係にも同じことがいえる。だからこそ、さらにしんどい。


そして、なんとか進んだあとに訪れるのが「代償を受け入れる」こと。
失うことを選択したものが、目の前の現実として自分を苦しめにかかってくる。たとえば、毎月毎月着実に減少を続けていく貯蓄。あとどれくらい持つのか、その頃には収入を確保できるのかすらわからないことで、不安が強まっていく。あるいは、価値観をともにできなかった人々が離れていく様子。一緒に過ごすことが幸せだったはずの人たちと離れて、自らの幸せを追い求めるという現実。他にも、資源がないことで動かせない事態に自分の無能さを感じさせられる瞬間。
あらゆる機会を通じて、自分に「代償」があることを痛感させられる状況に直面する。これらを乗り越え続けること。


さらには「邪魔が入る」こと。
社会的な意義の高いことをやっているとはいえ、それを止めにかかる人は枚挙に暇が無い。できない理由をあげつらう人、分析や評論を繰り広げるだけの人々。活動の本質をまったく理解せずに、大切な時間とコストを巻き上げるようなふるまいをしてくる人と向かい合わなければならないこともある。
付き合わなければいいと言ってしまうと簡単だが、どうあがいても耳に入ってきてしまうことはあるもので、そうしたことへの対処だけでもなかなかに骨が折れるものだと思う。


夢や幸せにむかってまっしぐらになるためには、それとは逆の側面が現れることもありうる。そうした事態を乗り越えてでも取り組んでいく気概。幼い頃から培ってきた「社会の期待にこたえる」という、ある種の誤解も含められた価値観。これをいかに切り替えて、かつ維持できるか。


ここに書いた感じだと、ちょっとネガティブに捉えられるかもしれない。実際、追い詰められていくような状況はあるだろうから、本当に苦しいものでもあると思う。
しかし、実は、大事なのはそういう捉え方ではない。「社会の期待に踊らされないで、本当の自分のやりたいこと(かつ、本当の社会の幸せにつながること)を目指すことができた」からこそ、ここで書いた苦しさを味わう状態に直面できる。ひとつステージが上がった状態だ。

この状態にあるとき、必ず「つらさを打ち消してあまりある幸せ」を手に入れられる機会を得ている。



■「社会の期待」を超えた先にある幸せ
自分のやりたいことに取り組んだとき、それが世間の価値観からすると「コースから外れていく」ように感じられる行動に至ることがある。しかし、そうした逆風とも思える状況を乗り越えた先には、補って余りある幸せ感をつかむことができる。


・やりがいの実感
自分にとってもっとも直接的に感じられるのが、「やりがい」による充実感なのだと思う。特に、フルコミットできないときには抱いたであろうストレスやジレンマを、一気に拭い去ることができる。

筆者のジョンも、マイクロソフトでの重要な役割には感謝しつつも、一方で自分の思いと組織の価値観との違いに悩まされていた。しかし、本に描かれている「退職してからの様子」は、すべての力を自分の思いにまっすぐに注ぐことが出来る喜びがひしひしと伝わってきた。


・応援を受ける喜び、賛同への感謝
社会の期待に背くというと、謀反者的な印象を抱くかもしれない。しかし、現実の世の中には、そうした「本当に価値のあることを真剣に追い求める人」を認めることができる人もたくさんいる。個人レベルでの物資や資金の援助をする。あるいは、パーティーなどの集まりで講演に真剣に耳を傾け、共感をあらわし、ねぎらいの言葉をかける。

さらには、ジョンと同様に、今手元にあるものをリセットして、スタッフとして加わる。しかも、その多くは無償からはじまるし、それまでの仕事よりも時間的にも肉体的にもタフな内容となるにも関わらず。

自分と思いも行動もともにしてくれる人々がいることの喜び・安心感・幸せ。そして、感謝。支えあうつながりは、前と上に向かって力を生み出していく。


・支援した人々からの感謝
こうした活動の最大の喜びは、現地の人々との触れ合いから得られる。自分たちの活動がどれほど役に立つものなのか、その存在意義を身にあまるほどに実感できる瞬間となる。

たとえば、アジア諸国の学校。たくさんの学校で「鍵つきの棚」の中に本が格納されている。しかも、開放されることなく(役立つ機会すらなく)大切にしまわれているだけ。数も少なく、内容も子供向けではないものだったりする(旅人が置いていったものとか)。ここに、世界から送られてきた「子供が待ち望む」ようなタイトルの本が「どっさり!」と送られてくる。

そんな場に立ち会って子供たちの反応(まわりの大人たちの反応も含め)を見てしまったら、きっと、その快感にとらわれずにはいられない。


こうやって書いてしまうと、なんとなく普通のことというか、よく聞く話のように思える。実際、僕自身、いろいろな媒体を通じて、よく見聞きした話でもあるように思う。しかし、この本から感じ取る印象は、そうしたものとは一線を画しているなぁ、と思わせるもの。

何が違うのかというと、「オブラートの薄さ」。こうしたエピソードが伝えられるとき、多かれ少なかれ、どうしても美談的にまとめられてしまうことが多い。あるいは、過剰に面白くしてみたり。しかし、この本では、そうしたぶらし方がとても少ないように感じた。筆者であるジョンの迷いは一般の暮らしをする人にとっても共感できるものが多いし、常人を超えた行動については「マイクロソフトなどでの経験」などの背景とした納得感がある。そうしたところから、真実への近さを感じたのだと思う。



■幸せな生き方を掴むために大切なこと

昨日までに書いたようなことは、本書を読めば多かれ少なかれ感じ取れることだと思う。場合によっては、本書以外の知識や経験からもわかっていることもあると思う。しかし、この本では、ジョンが考える「(社会の期待を超えた)幸せを得るためのコツ」のようなものも記されている。


・大きく考える
狭い範囲・短期間でものを考えないということ。大胆すぎるくらいの目標につながるくらい大きく捉える。たとえば、伝染病に苦しむ子供たちのための活動をするのなら「10年以内にアフリカの1万の村が安全な水を飲めるようにする」というように。そうすれば目標はおのずと実現する、という。

逃げ出す人が居てもいい。小さく考える人や大きな挑戦を恐れる人は必要ないから。興味を持ってくれる人と、ともに動いていけばいい。
 

・すぐに行動する
行動するには勇気がいる。難しいことに取り組もうとするのであれば、なおさら。自分自身が感じる怖さだけでなく、まわりから「できない理由」がたくさんまとわりついてくることさえある。一人で考えていると、そうした否定的な力に引き寄せられてしまう。

具体的な解決策をひとつも持っていなかったとしても、目の前にある案件がやるべきものであれば、実行を即決する。それくらいの勢いと覚悟を持って取り組む。


・「どうすればできるか?」を考える
これについては、特に印象に残ったエピソードを書くだけにしておく。
とある小学校でのこと。途上国への寄付をするために、子供たちが生み出したアイディア。それは「沈黙売ります」。10ポンド(イギリスなので)につき、1時間、自宅で黙って夜を過ごすというもの。親たちに大人気となり、寄付金集めを見事に達成した、というもの。

大人でさえなかなか手をださないことの多い寄付という行動に、子供が取り組もうという気持ちを持ったことがまず素晴らしい。そして何より、「自分たちだけではまかなえない」という現実を踏まえ、お金をもっている大人(親)たちを巻き込み、かつ皆が幸せになるであろう方法にたどり着いたこと。そして、それを実行したこと。いずれをとっても、魅力にあふれた活動だと感じたし、心底から感心した。

できない理由や先延ばしの気持ちを持つ前に、この子供たちの柔軟な発想と行動力を思い出せるようにしたい。もちろん、見習い、実践できるように。


ちなみに。ここに書いた3つのコツを支えるのは、ポジティブさ。うまくいくことを念頭に置いて考えを進めることが、何よりも大事なのだと感じた。



他にも、ジョンが語る話には深い示唆が込められている。面白かったのは「マイクロソフトという超優企業での経験と社会企業家としての経験を踏まえ、理想の組織とはどういうものか(あるいはその反面教師はどういうものか)」ということについて考えが書かれている部分。

マイクロソフトでのスピードや行動主義の考え方を大事にしつつ、硬直化したり保守的な部分には苦言を呈している。自らが立ち上げた組織については、良いところは踏襲して、良くないところを変える。実際に達成するにはいろいろと苦労があることも綴られつつ、それでも目指して工夫を凝らしている様子はとても興味深かった。



この日記で書いてきた内容は、あくまでも本に書かれていたこと。僕自身の体験や実感というわけではない。

あらためて「自分自身の天職ってなんだろう?」と考えてみたりする。でも、思い当たるものはまだない。そんなに簡単に見つかるものなら、今になるまで悩んでいるはずもない。

「天職なんてない」とか「今の仕事を天職と思って取り組む」といった話もきくけど、そうはいっても「天職だ!」と心底思えるものと出会える幸運の機会を得てみたいとは思う。

最近はいろいろと思うところもあり、今年は何かが見えそうな気もする。ジョンがネパールで「出会いの瞬間」を得たのは34歳。僕が今年の誕生日で迎える年齢。
ただの偶然ではないことを期待したいと思います(^_^




■とても強く印象に残った言葉たち

この本、なにせ内容が濃いので、まとめるのもひと苦労。というか、とてもとてもまとめられるもんじゃない。ということで、書ききれなかったことも含め、ここでは特に強く印象に残った言葉の数々を書き残しておきたいと思います。

「決心が変わらず、自分の本能を信じることができますように」

「(今の居場所で)大きな変化を起こせないのなら、ここを去ればいい」

「(うだうだ考えるのは)どれも引き伸ばすための作戦に過ぎない。自分が何をやりたいのか僕にはわかっている。そのときが来たのだ」

「真の起業家は、どのようにすればいいのかまったくわかていなくても、新しい製品やサービスを世界に向けて堂々と発表する。とにかく前に進むのだ」

「いったん大胆な目的を宣言すれば、そのもとに大勢の人が集まる」

「完璧な計画がなかったからこそ協力してくれた。自分の役割を自分でつくりだす。100%整っていたら創造性は必要でなくなり、意欲も薄れていただろう」

「僕は資金のあても無いままイエスと答えていた。(偶然連絡のあった1万6千ドルの寄付をみて)あと19日連続で同じことが起こればいいだけだ」

「一連のプロジェクトは、混乱の中から秩序をつくりだす人間特有の能力の象徴にもなるだろう。人類の進歩の大半は、挫折を乗り越え、障害と悲劇をものともせずに前進できるかどうかにかかっている
僕にとってのヒーローは、戦場と化した国や飢饉に苦しむ国、地震など自然災害に襲われた地域で身を投げ出して働く医師やジャーナリストだ。彼らは、過去をコントロールしたり変えたりすることは出来ないとわかっているが、未来に影響を与えることは出来ると心から信じている。悲劇に身がすくむのではなく、悲劇をばねに行動を起こす人々だ」

「考えることに時間をかけすぎず、飛び込んでみること」

「ゆっくり着実に進むことが本当に重要なときもある。でも、より良い世界を作るためにやるべきことがあるときは、障害を気にしてばかりいてもいけない。許可を求める必要も無い。とにかく飛び込むのだ。否定的な意見にやる気を奪われる前に」

マイクロソフトでは出会えなかった天職 僕はこうして社会起業家になった

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