重力ピエロ

伊坂幸太郎原作の映画です。


鑑賞して思ったのは、アイデンティティーとは何か、何によって定まるのかということ。

物語では、複雑な家庭環境と社会環境のなかで苦悩する家族像が描かれている。予期せぬ偶然によって幸福な家庭を授かり、突然の出来事によって辛い枷を与えられる。しかも、その枷は、家族にとっての幸せでもある。

苦しみの根幹に立たされたとき、人は自分自身を何によって支えればいいのか。自分自身のよりどころは、「個」なのか「属」なのか。


全体を通じて、悲しさと切なさが沿い続ける少し重めの内容なのですが、そんな中でも明るさと素直さを忘れずにいる若者と大人の姿が描かれています。それは、作品中に出てくる「本当に辛いことこそ、明るく伝える」というようなセリフからも伝わるのではないかと思います。



この作品、何よりもまず、タイトルにつかまった。「重力ピエロ」って、ちょっとやそっとではでてこない。センスを感じずにはいられなかった。重力とピエロ、言葉の微妙な飛び感と、ぐわっと世界観や背景やストーリーが一瞬にして広がっていく言葉だ。簡単なものをふたつ組み合わせただけでこれだけのエネルギーを生み出すのは、なかなかに難しい。

しかも、この言葉がストーリーと直結しているわけでもないのだけれど、まったく別なものでもない。このさじ加減の絶妙さ。感服しました。


重力ピエロ (新潮文庫)

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