「残業ゼロ」の仕事力

(1)内容
 トリンプの元社長吉超浩一郎さんの著書。
 がんばるタイム等、残業ゼロの仕事環境を社内に作り上げた実績をもとに、そこまで至るのに必要な段取り、覚悟等々を記している。
 
 すべての仕事は「問題」があり、解決に直結する最重要事項を見定め、「デッドライン」を決めて片付ける。この考え方で仕事を進めることが、効率的な業務運営の秘訣としており、各論を展開している。


【デッドラインによる管理の意義】 
 ・問題は「緊急対策」を最優先に片付け、再発防止と横展開につなげる。
  問題の当事者を怒る暇があったら、一刻も早く対策を進めるべき。
  ※当事者は報告にきた時点で十分に反省している、という考えをベースにしている。
 ・余裕の無い「デッドライン」を必ず設定し、どんなことがあっても守る。
  だめだったら延長する締め切りとはわけが違う。
  優先順位は余裕があるから考えることになる。その余裕が無いものをデッドラインにする。
 ・仕事を個人単位に割り振り、デッドラインで厳しく管理する。すると、ボトルネックが一目瞭然となり、スピードアップの対象が明らかになり、対処を打てる。これを繰り返す。
 ・デッドラインは「会社にとって正しいことを優先する」として設定。
  相手に対し「これくらいなら大丈夫」という配慮はしてはいけない。
  「できることわかっていること」は仕事ではない。「会社にとって正しいことをやる」のが仕事


【会議の意義】
 ・会議は必要。情報共有できるからこそ、当事者意識を持てる。非効率なことが問題なだけ。
 ・「完璧なたたき台」があればいい。きれいな資料は愚の骨頂。
  現状、問題、対処方法、時間と費用、等々が明らかになっていることが要件。
 ・会議は「完璧なたたき台」がいいかどうかを判断するだけの場
  その段階に至ってない場、「誰が何をいつまでに」をみんなの前で明確し、すぐに打ち切り。
 

【根付かせるための行動】
 ・無理せずに続けること
 ・残業ゼロに「残業は会社に問題があるんだからしょうがない」と抵抗する社員が相手でも、根気よく活動を続ける
 ・浸透するまで、自らが徹底して半年でも何年でも行動を続ける
 ・あわせて、守らせるための工夫(反省会や罰則、連帯責任)も取り入れる
 ・加えて、無駄な作業(IT化可能なもの等)は徹底的に取り除く(自動化するなど)


【心の持ち方】
 ・途中であきらめさえしなければ、絶対に勝つ(勝つまでやめない)
 ・本気なら、軋轢を怖れず「いいからやれ!」で進める覚悟を持って取り組む
  みんなの意見を尊重することを優先していたら、楽な方向に流れるだけ。
 ・フォロワーシップを身に着ける(リーダーの指示に従い、フォローする)
 ・仕事はゲーム。自意識(自信、恥ずかしさ、気後れ)をもたなくていい。勝つための最善の方法をとることだけを考える。
  ただし、のめりこまないこと。俯瞰でみられること。



(2)書評
 吉超さんの考え方は一貫していて(前著も含め)、メッセージもわかりやすい。
 デッドラインによる管理は、実際の業務においても、ちょいちょいないがしろにしてしまうし、されてしまう。「デッドラインで管理する」ということが全員の共通意識になっていれば、そういった適当さによるストレスは軽減でき、仕事も進むことなのだと思う。
 本書でいちばん価値があると感じたのは、「自ら覚悟を持って取り組み続けること」という意識。特に、吉超さん自身が社内にこの考え方を浸透させるため自ら行動した様子は、感銘を受けた。たしかにここまでやられたら、意識に変化は起きると思う。何よりすごいのは、非情に徹底して求めると同時に、会社の問題で発生している無駄作業(主に間接作業や仕組み・ルールによるもの)を徹底的に排除していること。ありがちなのは「会社は社員に求めるけれども、自身は痛みのない状態で進めようとする」という展開。これをやってしまうと、社員の立場からしたら、絶対に真剣に取り組もうなんて思わない。でも、本当にすごく多い。こうした状況を回避して(本当は何かしらあったのだと思うけど)、最終的には成果をだしたことは素直に尊敬する。

 一方で、ちょっと極端だなと感じるところもある。「組織優先」という意識。「会社にとって正しいこと」とか「いいからやれ!」の精神であるとか、「フォロワーシップ」とか。軍隊の事例なんかをもちだして正当性を示されていた。でも、実際には本書に書いてあるとおりの考え方だけでは動けないし、成功もしないと思う。軍隊の事例についても、実際の最新の軍隊は最前線の兵士が自ら判断可能な上京にする装備(主に情報機器)もされているときいたことがある。会社も同じはず。
 「組織で一丸となって」という姿勢は、組織力となって有効だと思う。でも、やっぱりバランスが大事なのは確か。
 ※とはいえ、本書でも、残業ゼロに向けた取り組みは「社員の人生を豊かにするため」という思想がもとにあるので、ここで指摘したことは実際上は解消されているのだと思う。

 あと、ぜひ知りたいと思ったのは、デッドライン管理とした場合の仕事の進め方。デッドライン管理すると入っても必ず計画は立てると思うので、それとどう連携させているのか。具体的な内容を教わってみたいと思った。
 ※僕はこのあたりが苦手なので、事例になるようなケースをきいてみたい。



(3)キーワード

 「デッドライン」「二千時間働いて売上増は当たり前」「仕事のキャパシティ=能力×時間×効率」「完璧なたたき台」「TTP(徹底的にパクる)」「フォロワーシップ