光州5・18

映画です。
http://www.may18.jp/


韓国の光州事件をもとにして映画化した作品。

僕はこの事件のことをまったくわかっていなかった。光州事件といわれても、いつどこで何が起きたのかすら、まったく頭に浮かんでこないくらい。


そして、観終わったときに「こんなことを知らなかったのか」と。とてもとてもインパクト強く複雑な思いの余韻が残った。


正直、いつにもましてメモを残しにくい作品。いろんなものが頭に残っている。断片的になりそうなのだけど、思い浮かぶままに自分の受け止めた感覚を書き留めてみたい。


■正義なき権力に立ち向かえるか?
 ちょっと前まで、日常と変わらない、なんだったらちょっと幸せなくらいの時間を過ごしていた。その直後に、権力をたてにした武力による制圧を受ける(そういう場面に直面する)。
 こんな状況を目の前にして、嫌がおうにも巻き込まれてしまうことを、受け止めることができるだろうか?
 見知らぬ人も知っている人も、目の前で凄惨に傷つけられていく。自分もいつ同じ目にあうかわからない。

 僕は、そんななかで権力に立ち向かえる自信はない。逃げてしまうかもしれない。どんなに理不尽で、どんなに卑劣な行為をしていたとしても、怖さにおののいてしまいそうな気がする。
 そんな風にはなりたくないし、それこそジェイソンボーンのようにバッサバッさとなぎ倒すことができたら、どんなにかっこいいだろうとも思う。でも、それは現実的な想像にはつながらない。
 こうした感覚に、いくばくかの自己嫌悪と、しょうがないという諦観と、それはそれで正しいという感覚とが入り混じっている。



■武力に対抗するために武力を使うか?
 攻撃を受けたとき、光州の市民たちは武器をとった。軍事経験のある人々を先頭に。
 僕は、この場面にいたとき、同じ選択をしただろうか?

 できない気がする。身内がひどい目にあって、どんなに怒りが高まったとしても、どこかでブレーキを踏むのではないかと思う。感情で我を忘れたり、まわりに流されることもあるかもしれないけど、それでも全面的に賛成して武器を手にすることはない気がするのだ。
 そういう自分を情けなく思う面もあるのだけど、それはそれで正しいとも思う。

 思っていたのは、武力以外の解決方法は何か、ということ。いまのところ、「光州事件の場にいたら、こうしていた」というものは浮かんでない。ただ、イメージ的には、ホテルルワンダのルセサバギナのような言動で、ことの解決に臨む姿でありたいと思った。



■なぜ戦うのか?
 光州事件も、先日鑑賞したあさま山荘事件にしても、なぜ武力が絡んだ展開になるのだろうか。
 人を殺すことが目的ではないところからはじまっているのに。
 これに関しては、まったく想像ができない。どういうことを発端にそうなってしまうのか。きっと、気がついたら引くに引けなくなっていて、しかも話が膨らみ続けてしまったとか、そういう感覚が少なからずあるんじゃないかと思うのだけど。でも、具体的にどういう話がどういう展開をして、というあたりはまったく感覚がつかめない。
 


■目の前にある現実のぬるさ
 仕事もプライベートも、いろいろなことに一喜一憂している。悩むこともたくさんある。
 ただ、こうした映画を観ていると、そういった日常がとてもぬるくみえてくる。
 こんなことで立ち止まっていられるかという気概につながることもあれば、こんなことをやっていていいのだろうかという疑問がわくこともある。
 彼らと同じような状況を目の前の現実として味わいたいとはまったく思わないのだけど、ぬるさ・甘さを感じるような環境で過ごせていることに感謝をしつつ、妙な焦燥感もある。

 「これでいいのか? 自分」

 この言葉を問いかけ、答えを返せるようになったら、光州事件の現場にいても何かができるんじゃないかと思う。



といった感じで、なんだかんだまとまりませんが。ひとまずこのまま。
 

あと、ここまでとは、ちょっと違う視点で思ったことをひとつ。

■人を動かすのは志と言動のセット
 戦いに挑むにあたって、光州市民の隊長をつとめる人物がいる。この隊長は、つねに現場にいた。戦うことの儀をもたせ、理解させ、勝つための戦略と技を教え、鼓舞と激励と自ら先陣に立つ姿で勇気付ける。
 常にそれをやる必要はないと思うのだけど、ここぞというときにはとても大事なことだと思う。



ほかにもいろいろと感じたことはあったのだけど、とりあえずここまでで。


この映画、上映時間は2時間なのだけど、もっと長く感じた。それは面白くなかったわけじゃない。
長く感じたのは、「濃密さ」にあるのだと思う。
 ・本題に入ってからは、重厚な雰囲気のシーンが増える
 ・前半のクライマックスですでにピークレベルに達する
 ・多くのエピソードがぎっしり詰まっている

実際の事件をもとにしているとはいえ、少なからず脚色をしていると思う。意図的な演出もたくさんあると思う。これがすごい。この事件をもとに、この映画で描き伝えたいことを洗練し、脚本と演出を仕上げたんじゃないかと思う。


映画の感想はけっこう分かれそうな気がしますが、いずれの感想を持つにしても観る価値のある映画だと思います。
韓国で起きた事件というだけでなく、もっと大きな捉え方で見据えることができると思います。