チャーリー・ウィルソンズ・ウォー

この映画は、何が言いたかったのだろう。あまりぴんとこなかった。
最初は戦争に関していろいろとものいう内容なのかと思っていたので、実際の内容とけっこうずれがあった。それで、この感想につながったのかもしれない。


率直にいってしまうと、「型破りで破天荒な人物の偉人伝」的な作品にとどまってしまっているような気がする。なんというか、主人公の人物がこの映画で示されている内容(脚色があるとは思うけど、事実をもとにしているらしい)について、説明と言うかいいわけをしているような印象を受けたのだ。


少なくとも宣伝で示されているような「奇蹟」や「世の中を変えた」みたいな話とは、ずいぶんと溝を感じる内容だったとは思う。



違和感をおぼえた要因をおおまかにあげてみると
 ・武力に武力で(しかも第三者として自らは表に出ずに)対応したこと
 ・不完全な人物像
というところ。
どちらも、この映画における「売り」にあたる内容のようなのだけど、「これを売りにしていいのか?」ということからして、頭に疑問が浮かんだ。


思うに、主人公の人物は、これまでにもこうしたことの批判を受けてきたんじゃないかと思う(賛否両論あるにしても)。こうした批判への反論というか、そういう感覚でつくられたかのように思えたのだ。



本来、この映画で扱われるべき根幹のテーマは、戦争への取り組み方だと思う。武力への対処の仕方、義のない戦いへの立ち向かい方、第三者国としての関わりあい方、金の使い方、人の命の重さ、国の威信・・・・などなど。


なのだけど、この映画では、あくまでも「チャーリーウィルソンという個人が、どんなことをがんばったのか。いろんな批判めいた出来事に巻き込まれたけど、それにはいろんな事情と背景があって、でもそんななかでも大きなことをやり遂げたのだ」というメッセージが前面に出すぎていた感じが強い。
だから、「言い訳」っぽいという印象が残ったのだと思う。



さらに気になったのは、話がわかりにくいこと。戦争と国際情勢というただでさえ耳慣れない言葉や名前がでてきやすい内容なのに、あからさまに前面にだしてくるのだ。自分自身の無知が大きな要因であるものの、こうした言葉使いに加え、さらには展開の早さ(かつ早口のせりふ回し)も理解を難しくした。
そんなこんなで、「こんな専門性の高い難しいことをやっていたんだよ」という印象につながった。



ネガティブな印象になったのは、もうひとつ理由がある。
それは、チャーリーウィルソンという人物がやっていた行動について、スーパーマン的な描き方がされているから。この人が関わったあらゆることは、相当にタフな交渉があったことは想像に難くない。


でも、そうした困難さはいっさい描かれず、ユーモアを大いに盛り込んだ会話で、さまざまな局面をどんどんと乗り越えていく、その瞬間的なシーンばかりが見えてくる。すごい、軽い感じがしてしまうのだ。
ということで、「人並み(以上)に悪さもしたし、大きなことも成し遂げた」という人物であるにもかかわらず、人間味がいまいち伝わってこない。


こんな感じで、妙に後味がよろしくない印象となってしまいました。残念。




さて、この映画に意味を見出そうとすると、どういうことを取り扱うことができるのだろうか。
きっと、戦争に対する嫌悪感を強めることだと思う。戦争というものが、おそろしく膨大な犠牲を伴うにもかかわらず、残すものがいかにわずかなものか、ということを伝えることができたんじゃないかと思う。
でも、この映画での描き方は反対の捉え方になってしまっていた気がする。


宣伝文句にもあるように「(武力行使の)戦争によって、世の中を変える、救う」という感覚をもってしまいかねない。
さらに、戦争シーンの映像からも誤解を与えかねないとも思う。ミサイルで攻撃するシーンはすごくゲーム的な感覚を覚えた。また、つたない手元で武器を手にした人々があっさりと大砲でヘリコプターを爆破し喜んでいる姿なんかは、戦争がものすごく簡単なものに見えてきてしまうとも思った。


実際の戦争の映像なんかも織り込まれていたものの、本来望まれる効果にはいたっていないと思う。



ただ、この感想は人によって割れそうな気もしていて、「僕の見方が斜めなだけかもしれない」という感覚もある。見た方がいたら、率直な感想をきいてみたいところです。




さて。ちょっと話題がそれます。
映画として世に広めるにあたって、すごく大事なことをあらためて思った。それは
 ・映画として何を描くのか。描くべきものを描いているか。そこからぶれない内容にできているか。
 ・描いた内容とマッチするマーケティングを行っているか。
ということ。


映画に限らないことかもしれないし、完全にやりとげるのはけっこう大変なことなのだとも思う。でも、せっかくの作品なのだから、せめて後者だけはなんとか守ってほしい。


映画の宣伝については、あまりにもひどい(作為的に観客に誤解を与えて鑑賞に誘導しようとしている)ケースが比較的多い気がするので、ぜひとも取り組んでもらいたいところです。