赤めだか

立川談春によるエッセイ。10万部を超えるヒット作(だけど、僕は教えてもらうまで知らなかったのだけど・・・)。

実際読んでみて、これはいい本だと思った。素晴らしい。文章のうまさ(落語的な韻というかリズムが、音の付与されていない文章から伝わってくる)もかなりすごいのだけれど、やはり何よりも内容の味わい深さに酔いしれた。

ただ、だからこそ感想を書くのがとても難しい。でも、なんとか書いてみる(^_^;


■笑える
その根源にあるのが、文章。本では「落語を語るにはリズムとメロディ」という談志の言葉が記されているが、本に書かれている文章にも体現されている。読み心地の良い言葉遣いが、自然な面白さを生み出すための土台になっていると思う。この感覚ははじめてかも。

もうひとつは、文章構成。落語のネタの構成がどういうものなのかは知らないのだけど、掴み・振り・サゲなどなど、エッセイとしての文章なのだけど落語としての浮き沈みに似たような波があって、狙い通りに笑わされている感じさえする。しかも心地いい(^_^

そして何よりも面白いのは、活き活きと描かれる個性あふれる人物たち。個性そのものが魅力的な上に、それを象徴するエピソードが面白すぎる。しかも、その様子を描く言葉が秀逸
。その瞬間の(面白い)情景がぱっと頭に浮かぶように書かれている。談志がサングラスをかけて伏せた姿で空気銃を構えている場面とか、面白くないわけがない(^_^



立川談志(一門)の魅力
世の中的には、面白さにも通じる破天荒さが前面にでているように思う。僕にとっても、そういう印象が大きかった。この本に書かれているエピソードからも、決して間違った印象ではないことが保証される。

しかし、それだけではない。この人の破天荒さは、その極端さをバランスさせるだけの大きな要素がふたつある。ひとつは「人情」、もうひとつは「目」。


●人情
以前、テレビで誰かが(毒蝮三太夫だったかな?)
立川談志ほど人情にあふれた人はいない」
といっていた。

テレビを見たときだけでは、正直、あまり実感がわかなかった。やはり、(マスコミが扱いたがる)辛らつなふるまいの印象の方が強かった。しかし、この「赤めだか」から伝わってくる談志の印象は、「人情のかたまり」みたいな人だと思った。

弟子にとって「ここ一番」というときには、最高の愛情を注ぐのだ。ときには包み込み、ときには突き放す。そのときどきで、いちばん合うふるまいを選択して接する。弟子が一山を超えられたときは心から祝福し、うまくいかなかったときは心から惜しむ。

あらゆる関係でこうした思いを持ち合うことが出来たら、同情に値しない犯罪は激減するんじゃないかと思った。


●目
エピソードの多くに「立川談志による弟子たちへの教え」が書かれている。この言葉、かなり重い。重いというか、落語に限らず社会全般に通じる深さがある。特に「教える」ということへの姿勢は、学校教育に限らず、ビジネスやコミュニティの場でも大いに参考になる(いや、するべき)。

ここでは、印象に残った言葉を書きとめる。

「修行とは矛盾に耐えることだ」
「(芸を)盗むほうにもキャリアが必要。盗めるようになりゃ一人前」
「(プロは)観客に勉強させてもらうわけではない。(与える側として)プライドを持て」
「教えてもらえないから前に進めないなんて、甘ったれるな」
「己が努力、行動を起こさずに対象となる人間の弱みを口であげつらって、自分のレベルまで下げる行為、これを嫉妬という」
「(嫉妬を超えるために)現状を把握したら処理すりゃいいんだ。その行動を起こせないやつを俺の基準で馬鹿と云う」



と書きつつ。何よりもすごいのは、これだけの印象を持たせながらも、破天荒さの印象がまったく色あせないところなのだが・・・(^_^;



他にも多くの気づきや学びにつながることがたくさんあると思います。ここでは談志に関することが印象深かったと書きましたが、談春自身のエピソードからも印象に残ることはたくさんありました。自分との共感という意味では、談志よりも談春のエピソードのほうが印象深い。





さて。ここまで書いてはみたものの。
この立川談志(一門)と深い付き合いをもちたいかというと、なかなか微妙(^_^;

良薬は口に苦い。毒キノコはうまい。そう相場は決まっているもの。本に書かれているエピソードは氷山の一角で、ここまで強烈でないものや、強烈過ぎて書けないようなこともたんまりとあるだろうことは想像に難くない(笑)

しかも。毒キノコに限らず、良薬だって度が過ぎれば毒だ。扱いには十分な配慮がないと、えらいことになってしまう。「一般人より近くで、ちょっと詳しく事情を知っている」くらいがちょうどいいんじゃないかと思ったり(^_^

ま、興味深い人たちであることは、間違いないです(^_^