敗者復活

サンドウィッチマンの著書。いわずとしれたM−1 2007の優勝者が書いた本です。

先日(といっても、もう何週間も前になるのだが・・・(^_^;)、この本を購入し、読んだ。買う前は、なんとなく面白そうだな、くらいの感覚だけで選んだ。サンドウィッチマンという芸人の生き様がどんなものなのか興味があった。


で、読んでみたら、購入したときの感覚とはちょっとちがった。でも、面白かった。


本の内容について、想像とちがっていたのは、主に前半部分。この本は、伊達と富沢がであう前の頃から触れていたのだ。で、高校時代にはじめて出会ってからの流れが書いてあるという。僕はもっとM1近辺の話がたくさんあるのかと思っていたので、配分の違いにはちょっと面食らった。


とはいえ、これはこれで面白かった。

ひとつは、彼らの浮き沈みについて書かれていた部分。本の前半部分は、デビュー前の話か、ほとんど売れない頃の話。しかし、ここから売れ始めるまでの苦労話は、なかなかに身に染み入る。いっぱんの会社員であれば、これほどのふり幅の大きな浮き沈みはない。だけど、似たような感覚は少なからずあると思うのだ。

この本に描かれているサンドウィッチマンの「沈み」の様子としては、10年間つきあい続けた恋人と別れることとなったり、解散の危機を迎えたり、ちょっとかけちがえていたら自殺していたかもしれなかったり・・・。かなり大きな節目を、どん底状態の続く中で迎えている。

会社員として仕事をしていると、ここまで極端な状況にはなりにくいのだとは思う。生活は時間的にも収入的にも、それなりには安定している(ワーキングプアの問題はあるとはいえ)から。とはいえ、それでも本人にとっては大きな痛みに感じる事件は起こるものだ。安定しているから倒れないかというと、かえってもろいこともある。



では、「浮き」の状態はどんなものだったか。僕にとって印象に残ったのは、サンドウィッチマンが気持というか、覚悟を切り替えた時期のことだった。それは、M1の2005年にはじめて準決勝に残ってからのことだったらしい。それまでは、ある種デキレースだと思っていたM1で実績をもつことができた。その瞬間、M1は現実の目標に変わったというのだ。

以降、彼らは、考えた。どうしたらサンドウィッチマンが優勝できるか、を。自分たちの笑いを多角的に分析し、M1対策としてどういう対応が効果的なのか、過去の実績を持つコンビの徹底的な分析や、島田紳助のレクチャーDVDを参考にしながら磨き上げていったというのだ。

そして、優勝という成果をあげた。これは、本当にすばらしいことだと思った。そして、同じことは仕事でもできるだろうとも。腹を決めるタイミングを持つこと。これに尽きるのかもしれない。参考にする材料は、少なくとも漫才の世界よりはビジネスの世界のほうが手に入れやすい。

挫折と小さな確信を持つ瞬間、そして手の届く距離にあるロールモデルとの出会いと、見果てぬ夢で終わらない目標を設定すること。あとは、分析と行動のみ。単純なだけに、切り替わる瞬間のタイミングとエネルギーの強さが大事なのだと思う。サンドウィッチマンのように、うまいこと揃った状態でそのときを迎えられるかどうか。というか、そういう時期に迎えられるように準備しておくものなのかもしれない。



さて、この本の中で、僕が何よりも印象強く残ったこと。それは、サンドウィッチマンをとりまく人々との関わり合いの様子。
サンドウィッチマンがふだんからつきあいの深い人として、何人かの名前があがっている。たとえば、東京ダイナマイトハチミツ二郎U字工事タイムマシーン3号の関、などなど。彼らとは普段から付き合いがあり、ハチミツに関しては先輩として相当お世話になっているとか。

この本の中では、サンドウィッチマンが敗者復活のなかで勝ち抜いたときの様子が書かれていて、そのときそばにいた人々として先に名前が挙がった面々のことも触れられているのだった。

で、この本を読んだ後、録画したM1の2007をひさしぶりに見てみた。いつもは、敗者復活者の発表のシーンは、早送りする(結果が分かっているので)。ただ、今回に限っては、そこをしっかりと見てみた。
すると、そこには、本に描かれていた様子が本当に映っていた。100人以上の芸人が舞台にぎゅうぎゅう詰めで集まっている状態。そんな雑踏のなかなのだけど、かろうじてカメラに拾われたサンドウィッチマンの傍には、彼らと関わりの深い面々が映っていた。サンドウィッチマンが敗者復活に選ばれたことを心から喜んで興奮している様子が感じられた。

彼らは仲良しなのだろう。でも、ライバルであり、競争相手でもある。しかも、相当に過酷な環境で戦わなければならない相手だ。少なくとも、M1というタイトルを争うこの大会においては、棲み分けすらなく、ただひたすらに同じ土俵で戦わなければならない。
でも、そうした状況にある相手を、仲間として心から応援できる関係にある様子は、とても素晴らしいと思った。

そして、その後、サンドウィッチマンが、そうした仲間の思いを受け止め、決勝で2つの漫才を決め、優勝を遂げた様子はとても感動した。

こうした感動を、どうしたら普段の仕事から、できるだけ多くの場面で、関わる人のできるだけ多くの人が味わえるようにできるか。考えどころだ。




今回、この本を読んで、あらためて思ったことがあった。
あれだけ知名度の低かったサンドウィッチマン。いきなりM1優勝者の看板を背負わされてどうなるか、ちょっと心配だった。でも、彼らは、きっちりとこの1年を乗り切ったと思う。M1優勝者に値する腕を見せ、期待に見合うだけの活躍をしてくれていた。

いきなり舞台にあげられても、きちんとこたえること。プロの条件なんだろう。でも、それを実際にできることは、やっぱりすごいことだ。僕も、少しずつでも見習おうと思った(^_^