M1グランプリ 2010

とうとう10年目の大会。しかも、今回がラスト。
どんな対決が繰り広げられるのか。面子から決戦の様子が想像しきれないところもあり、期待を超えた戦いになることを期待しつつ、鑑賞。


■決勝1回戦

(1)カナリア 85(592)
面白かった。でも、1組目でやるのにも、ちょっと向いてない。特に入り。あと、4分のネタにするのはもったいない感じのネタ。長いほど笑える。

(2)ジャルジャル 82(606)
相変わらずの変化球。なんとなくバクマンを思い出した。

(3)スリムクラブ  93(644)
面白い。スリムクラブワールド。このネタも4分でやるのはもったいない。惜しい。
芝居上手いな、この二人。

(4)銀シャリ 88(627)
うまい。うまいんだけど、勢いがちょっと。前に観たときのネタとくらべると弱い感じがする。

(5)ナイツ 87(626)
後半の上がり方はよかった。これも長い時間かけたほうが面白い感じがする。

(6)笑い飯  86(668)
昨年とかぶるのと、ネタ連発させ過ぎな感じ。笑い飯本来のペースとはずれてそうな印象。
この点数のために審査員変えたのか?

(7)ハライチ 84(620)
面白いところもあるのだけれど、昨年とかぶっていて勢いの印象が2割減。2年連続で出場するってのは、難しいんだな。

(8)ピース 81(629)
やっぱり漫才よりもコントの方がいい。このテンポとリズムは、4分の漫才勝負では活かしにくい。

(9)パンクブーブー 96(668)
おもろい!!!!!
パンクブーブーらしさが満載。僕が数年前にパンクブーブーに可能性を感じたときと同じような勢いが見れた。



事前に想像していたよりも面白いネタが多かった。そういう意味では満足。
でも、点数の偏りはいけてない。少なくとも、よしもとが売り出したいコンビに点数入れすぎ。正直、これで興ざめした部分はある。この数年ずっと感じていたことが、いちばんあからさまにでた年のような気がする。



■決勝

(1)スリムクラブ
このテンポに芝居、そして沖縄なまりが効いてる。
ネタは打ち手の少なさ(用意することが難しい、とか)で今のM1の流れに対抗するためのやり方。これにたどりついたのががいちばんすごい。

(2)笑い飯
昔に比べるとすごいつかみがうまくなっているのは成果。
今回のネタは、規格内だった。チンポジの方が笑い飯らしくていい。1本目と類似性のあるネタよりも、場をぶちこわすような爆発が欲しかった。そして、そこに優勝を与える審査員であってほしかった。

(3)パンクブーブー
短い。もったいない。1本目の延長にとどまっているところで、しかもこれから盛り上がっていくんじゃないというノリが観客側からも見えてきたところで終わった。
あれ、あと1分続けてたら爆笑までもっていけたんじゃないだろうか。惜しい。



ということで。今回の優勝は、スリムクラブと予想。新しいスタイルで勝負して、しっかりと結果を残す。爆笑をとった。それは、やはり、きちんと評価されるべき。漫才といっていいかという部分については、これは漫才としていいと思う。面白かったし、あの二人のキャラクターと素質と力量がすべてあいまってできた作品。傍流かもしれないけれど、漫才だと思う。



で。結果は。

笑い飯が優勝。

おめでとう。M1の象徴が有終の美を飾りました。



■まとめ

今回で最後というのは、いい判断だと思う。M1のための漫才が主流となってきていて、漫才を追求するという本来の姿勢がぶれていったというのがここ5年くらいの流れ。それが、結果として技術の向上につながったのは事実。
一方で、そうした路線に過剰投入しすぎて、飽和してしまった感が現れた。それがNONSTYLEでピークを迎えた。そこに対抗する動きとして、新しいスタイルを生み出して挑んでくるコンビも増えた。それは、まさに発展のサイクルとなるもの。M1の価値の大きなところだったと思う。そして、その原動力となったものの最大の功績者は、笑い飯。これは間違いない。


そんな彼らが、最後の舞台で優勝を遂げた。これは、こころから称賛を贈りたい。なんだかんだといわれながらも、足かけ9年間を決勝でプレッシャーを浴び続けながらも戦い抜いたのは、本当にすごい根性のいることで、生半可な気持ちでは堪えられない。もちろん、腕も必要。そうした期間を過ごしてきたからこそ、この優勝を受け取る資格を十分に備えている。

ただ。僕としては、やっぱり、最高の感動というわけにはいかなかった。それは。



笑い飯による「笑い飯らしさ満載のネタ」ではなかったと思ったから。



笑い飯のスタイルであったとは思う。でも、僕が思う笑い飯らしいものではなかった。彼らは、もっと規格外だった。亜流だった。アウトローだった。「うまい」といわれることなんかよりも、もっともっと原始的な欲求の思うままに表現して笑いの渦を生みだす。そういう存在だった。2003年の決勝で見せた漫才は、まさにそれだった。昨年の「鳥人」はそれに近い状態に戻ったかに思えた。でも、戻るよりも、今の流れで、今の審査において勝つ、ということに重きをおいた。

だからこそ得られた優勝という成果。でも、一ファンとしては、やはり少し物足りない。そんな消化不足感も残った。



と、いろいろ書いたけれども、やはりこのイベントは素晴らしい意義があったと思う。笑いのステータスを押し上げたし、一般社会における位置づけの改善にも成功した。

なにより、その年の笑いの締めくくりができる、心から楽しみに過ごせるイベントだった。この日ばかりは、予定をできるだけ入れず、夕食を早めに済ませ、何よりも真剣に番組に集中する。この充実した時間は、何事にも代えがたい貴重な機会だった。


M1が無くなったことが、来年からのお笑い界にどういう影響を与えるのか。けっこう気になるところではある。大きな目標が消えたとき、体勢が大きく崩れたりする。でも、ただ崩れるだけというよりは、そうした節目にこそ新しい才能が芽吹く機会になることもある。M1では出会うことができなかったであろう新たな笑いに、これからもたくさん出会えることを期待して、今年のエントリの締めくくります。

中田英寿が見たワールドカップ

NHKで放送された「中田英寿が見たワールドカップ」という番組を録画しておいた。今日、それを鑑賞してみた。

中田がワールドカップにおけるサッカーをどういう視点で切り取り、どういう解釈をし、どういう示唆を得ていたのか。1時間近い番組の多くを、そうしたインタビューを中心とした構成になっていると期待していた。

ところが、そうした内容は3割弱くらいで、どちらかというと「ワールドカップ期間中、中田が南アフリカで何をしていたか」というドキュメンタリー的な構成。ワールドカップ以外の活動(南アフリカの現地での実態。AIDS患者の子供たちが集う学校へ訪問している姿とか、地元の小学校にいって一緒にサッカーをしたり、植林(正確には家庭菜園の促進)をしていた)も映されていた。
そうした姿は素直に尊敬する。とはいえ、中田が見せたかった(個人的な欲求というよりは、そうした活動の認知を高めて行動を喚起したかったのだと思う)ものであって、鑑賞側が期待していたものとはギャップがあったようにも思う。このあたり、番組の構成を工夫する必要があったと思う。少なくとも、タイトルとは合ってない。


特に印象に残ったのは、ふたつ。


ひとつは、2006年のワールドカップで現役を決意した理由。

引退を決めた背景。

「サッカーをやっていて、楽しくない」
「好きではあっても、楽しくなかった」
「愉しくないものを、お金を稼ぐためだけに、仕事としてやる。それは僕の中で、ある意味、サッカーに対する冒とくであり、それはしたくないから辞めよう、と」
「どういう状況が楽しめるかというと、『自分が、自分らしいプレーをできて、結果を出せる』ときがいちばん楽しい」
「いくら結果が出ようと、自分が納得しないプレーで結果が出ても面白くないし、逆に自分が納得したプレーをしても結果が出なければ面白くない」
「途中で『自分のプレー』というものを最後まで押し切らなかった時期があった。自分の意志、自分のやり方と言うのを貫くことができなかったのは、自分がいちばん残念に思う点」
「他の選手には、自分のプレーを推し進めてほしいなぁと思う」


サッカーだけしかできない人になりたくない。中田は、そうした考え方を現役の頃からずっと発していた。30歳という年齢を区切りにしたのも、それを意図してのものだったと思っていた。本人も、そうしたことを話していた(と思う)。

楽しくできなくなったからには、辞める。こういう選択をする人よりも、「石の上にも3年」を3年以上続けることに重きを置いた考えをすることの方が多いと思う。そして、そういう話を聞いたときには、日本の多くの実情を想像すると「投げだすんじゃない」「甘えるんじゃない」というお説教したがる人の方が多いんじゃないかと思う。

インタビューでの言葉は少しきれいごとのように感じないこともないけれど、それはそれとして本音だとも思った。



もうひとつは、中田のサッカー観。

「個人のチカラをチームのために削るというのは間違っている」
「自分のいいところを出さないでチームのために我慢するということではなく、
より自分のいいプレーを出すためにチームプレーをするという考え方じゃないと良くなっていかない。」


中田というと、エゴイストであったり、ワンマンであったりというイメージがどこかしらつきまとう。実際、そういう側面があるとも思う。自分のプレーを貫きたかったという後悔の言葉にも含まれていると思う。

ただ、中田の場合、それは「エゴ」ではなく、「役割」という捉え方なのだと思う。「責任」といってもいいかもしれない。チームの一員であるからには、自分の最高の資質を引き出さなければならない、という。かつ、それは、チームとしての成果が最大化するためのものであるように。

とはいえ、多くの人にとっては、そうした解釈ができるレベルを超えた話として感じられるのが現実。2006年の中田は。このあたりの頃合いを見計らう中で、「後悔するほどに、自分の思いを削って歩み寄った」、けれども「歩み寄った先にはまだ隔たりがあった」という結果になったのかもしれない。


仕事であれプライベートであれ、自分が所属している「チーム」がある。そこに「中田的な人がいる状態(2006年の代表)」と「いない状態(2010年の代表)」のどちらを望むだろうか。あるいは、自分自身が中田的なポジションを担いたいと思うか、フォロワーとなりたいと思うか、別な場にいることを望むか。
チームを作ったり、所属したりすることになったとき、常に最初に感じ考えるといいかもしれない。




中田の言葉を聞いてあらためて思ったのは、多くの一流と呼ばれる人たちと同じような意識を持っているということ。

 ・関わっている人すべてが楽しめること(エンターテイメント)
 ・そのために本気で全力を尽くすこと(プロフェッショナル)
 ・チカラを合わせることで最高の成果を生み出すこと(プロデューサー)

だからこそ、日本が目指すべきサッカーとして描いているイメージを、こう表現するのだと思う。


「やって楽しく、観て楽しい。それでいて勝てるサッカー。」


こう語るときのうれしそうな表情は、中田にしては珍しく、そして観ていても心地よいものだった。プレイヤーの時もこんな表情があったら、また印象が違っていたかもしれない。

中田英寿×本田圭佑

録画しておいたのを、いまさっき観た。すごい面白かった。2006年に中田が単独でインタビューに答えていたときもよかったけれど、それとはまた違う深さがあった。


対談を見ていて思った。中田と本田の違いについて。
当人同士は「似ている」という意見で一致していた。僕がはたから観ていて感じたのは、「似ている上で異なるところ」だった。それは、それぞれの個性を成り立たせている要素。



中田はintelligence。本田はspirit。



同じような年代で海外に渡り、同じように苦しい経験を味わった。いずれも同じような結論にたどりつき、同じように実践で積み重ねて結果を残していった。ただ、中田は「どうすれば自分のプレーができるのか」を論理的に考え、導き、行動につなげた。本田は戸惑いと苦しみと怒りをきっかけに、自らのプレースタイルを変えるという「決意」「覚悟」を固めることからスタートした。


対談の様子を観ていても、中田は常に「考えている」ことがわかる思慮深さの感じられるように話す。話し始めると、じっと相手に視線を向けつづけ、言いたいことが伝わるように選んだ言葉を口にする。相手ありきのコミュニケーション。


一方、本田の場合は「思いのたけ」をぶちまける。中田という先輩を相手にしている分、言葉づかいに気を使っている様子はうかがえた。それでも、常に「自分が思ったこと」を発したい。そういう欲求の強さがビシビシと伝わってきた。話しているときも、相手をみる時間は短く、常に視線がきょろきょろと動く。おそらく、自分の頭の中に描いているイメージをかなり具体的に追いかけているのだと思う。それくらい自分に集中する。



書いていて思い出した。雑誌の記事で「本田はいいやつ。中田のような毒が無い」という言葉があった。今回の対談を聞いていて、僕も同じように感じた。

本田はビッグマウスだから反感を買いやすい上に、コミュニケーション(特に「大人」な応対が求められる場での)が少し苦手なだけで、根のいい素直な人間だと思った。

中田は、どこまでが「素」なのか読みとれない、読み切れない。どこかしら「何か隠し玉をもって、相手に合わせて話しているのでは…?」と勘繰らせるような気配がある。それは(言葉はよくないが)「狡猾さ」がある。そしてそれは、中田が世の中を強く生き抜いてきた要因でもあると思う。



中田と本田との違いは、海外での成功の仕方にも差となって現れると思う。ただ、僕がいちばん期待しているのは、日本代表での「違い」だ。おそらく、本田の方が導いていくことができるんじゃないかと思った。いい方は悪いが「サッカーバカ」というか「サッカーアホ」な本田には、フォロワーがでてきやすい気がしたのだ。「こいつ、俺が手伝ってやらないとダメだな(笑)」と思わせる「隙」がある。本田がもうちょっと余裕をもてるようになって、「隙」を増やせるようになったら、かなりすごいプレイヤーにいたるんじゃないだろうか。




それにしても、中田のまとっている雰囲気の大人さ加減に驚かされる。4年前と比べると別人と思えるくらい雰囲気をもっている。ちょっとした好々爺みたいな感じ。中田から意図を込めた質問に対し、本田はずいぶんとそれた回答を返してくることが多かった。にもかかわらず、中田は柔らかな表情で、かつ真摯に本田の話を聞いた。話をさえぎったり、自分が本来きこうとしていたことに方向転換させるようなこともなく、本田の言わんとすることを最大限尊重するように。


いまさらながらにあらためて凄い人物だなぁと感心した。何よりも、観ていて刺激になった。明日から、頑張ろうと思った。

R1グランプリ サバイバルステージ

本日、開催された。いわゆる敗者復活戦。

戦前は「COWCOW山田與志」「友近」のどちらかがいくだろうと思っていた。


【感想】
(1)ユリオカ超特Q
  藤波の恩恵で人気が妙に高かった。アメトーーク、影響力大きすぎ。
  ネタは面白かった。ハゲネタに振り切ったのは、悪くない。

(2)今泉
  18KINだった頃は「〜じゃない方芸人」的な扱いだったが。
  ピンネタで生き残ってきたのは、正直びっくりした。
  ネタもよかった。感心したのは、R1の観客審査委員にウケるネタにしていたこと。ある種の逃げに思われがちだけれど、あそこまでやり切るのなら、あり。

(3)ナオユキ
  悪くないとは思う。でも、関西によくいる「いかにも『俺、面白いだろ』的な雰囲気」は、こういう場では難しい。特に、テレビでは。
  
(4)ゆってぃ
  笑った。あれだけ吹っ切れてると、ネタ云々ではない。リハーサルのあと営業をはさんできただけのことはある。
  
(5)中山功太
  フォーマットに凝り過ぎた感じ。ネタひとつひとつも、ちょっと凝り過ぎた。
  あと、順番も厳しかった。ゆってぃの盛り上がりのあとだと向かないネタだった。

(6)COWCOW山田與志
  面白かった。ライブで見たときは地井武男押しだったのだけど、阿藤快が加わっていて、パワーアップ。分散してしまった感もあったのが惜しかった。
  このネタは、めくりの緊張感とネタの面白さとの両立の妙が素晴らしい。

(7)田上よしえ
  すごいひさしぶりに観た。ネタがはじまったとき、「あれ? 古い?」とちょっと引いてしまったのだけれど、古さ加減を活かしたネタになっていった展開がよかった。「寺島しのぶくらい美人」という件で「ぐっ」と掴まれた。

(8)友近
  面白かった。決勝いくかな、とも思った。
  でも、あのネタは、この時間(3分)には向いていない。大半がフットルースになるネタの展開ももったいなかった。まあ、あれがやりたかったんだろうけど。
  ライブで見たときは、もっと長い時間あっても飽きずに楽しめた。ブラックなオチまで含めて。

(9)アナログタロウ
  面白かった。COWCOWと友近をくった感もあった。
  最初、どこかで見たことがあるのだけれど、ネタがいまひとつ思い出せなかった。あらびき団にでていた人かな、とか思っていた。ネタがはじまる寸前になって、「みなさんのおかげです」にでていた人だというのを思い出した。
  この人は順位が僕の予想より低かった。観客の審査だと、これがあるから悲しい。

(10)もう中学生
  う〜ん。ちょっとコメントは割愛。
  でも、登場シーンは面白かった。場面の切り替えの突然感も面白かった。あのぶっとび感を前面に出していけばいいのに。いつものネタ的な展開(「〜だねぇ〜」)を完全に封印すれば、いい方向に向かいそうな気がする。



ということで、ほぼ予想に近い順位だった。イメージがずれていたのは、中山功太が思いのほか低かったのと、もう中が高かったのくらいか。あと、田上よしえが思ったより高かった。



この大会を見ていて思ったのは、ハートの強さが大事ということ。
おそれずに全力でやり切ることのパワーの凄さを、まざまざと感じた。憧れさせるような最先端のネタをつくれなくても、こんなに笑いを生み出せるんだな、と。

今その時の自分の現実を真正面から受け止めて、その上でふっ切って全力を尽くす。まわりの反応が芳しくなくても、やり続ける。そうすれば、きっと伝わる。じんわりと、じわじわと。価値があると思ってもらえるまで、あきらめたりふてくされたりせず、素直に懸命に、何よりも幸せそうに楽しんでやってさえいれば。

この感覚は、いろんなことに活かしたいと思う。




さて。二日後に決勝が開催される。

バカリズム
いとうあさこ
Gたかし
川島明麒麟
我人祥太
なだぎ武ザ・プラン9
エハラマサヒロ
あべこうじ
COWCOW山田與志


いい面子が揃った。これは楽しみ。絶対、生放送に間に合うように退社する。



【予想】

本命:バカリズム
対抗:COWCOW山田與志
穴馬:エハラマサヒロ

エハラマサヒロは実質的には「対抗」。

この三つ巴になる。
なだぎも絡んできそうな気がするけれど、ハードルが高い分だけ不利でしょう。


いずれにしても、すべてのネタで爆笑させてもらうことを期待して、当日を待ちます。

M1 感想 2009

とうとう開催された。前置きはさておき、まずは内容を振り返る(実際は、鑑賞しながら書いた)。

【決勝】

・ナイツ        <85> 634
南海キャンディーズ  <85> 607
東京ダイナマイト   <87> 614
・ハリセンボン     <80> 595
笑い飯        <92> 668
・ハライチ       <87> 628
モンスターエンジン  <85> 610
パンクブーブー    <93> 651
NONSTYLE   <90> 641


【ネタをみた直後の感想(審査員の評価を観る前)】
・ナイツ
 小ネタの刻み込みが多くて、M1チューニングを万全にしてきたという印象。NONSTYLEの影響という印象もあるが。個人的には昨年の方が爆笑になるネタがあって好きだった。紳助のコメントが妙に褒めていて、優勝予定コンビなのかなぁと思ったり。

南海キャンディーズ
 出足は初登場のときと同じような面白さ。キャラとスタイルを活かしたネタやツッコミの面白さでの立ち上がりに期待が高まった。後半につながらなかったのが惜しい。

東京ダイナマイト
 めちゃくちゃ面白かったのだけど、たんたんといきすぎていてM1向きではないかなぁ〜…。特に最近の大会だと。

・ハリセンボン
 つかみから緊張感が伝わってきた。ハリセンボンらしいテンション全開のネタの部分は面白かったのだけれど、全体的に空回り気味だった感じ。このコンビは漫才よりもコントの方が絶対いい。

笑い飯
 奈良県立民俗博物館をほうふつとさせるようなネタ。ひさしぶりに「笑い飯、帰ってきたな!」と思った。ずしんとくる爆笑がでた最初のコンビだった。
 最初にボケが入れ替わったとき、それだけで笑いをとれた瞬間に、ダブルボケのスタイルの進化を感じた。まさに強みを生かしたネタづくり。


・ハライチ
 いきおいのあるネタはM1向きだなぁ、と思った。審査員として評価するのは難しいだろうなぁとも思った。

モンスターエンジン
 たしかにM1向きな感じのテンポになっていたのだけれど、その分だけ普通になってしまっていた気がする。モンスターエンジンならではの不条理さというか無理やりさというか、とんがった部分が薄らいでしまっていたように思った。

パンクブーブー
 「だからパンクブーブーは決勝進出すると思ってたんだ!」と、この数年間抱いていたことがやっと実現したような爽快感のある面白さを味わわせてもらった。素晴らしい。ここまででいちばん笑った!

NONSTYLE
 うまい。面白かった。昨年よりも良かった。ただ、延長線上という変化であった分、印象が弱くなった。連続出場の難しさ、特に前回の評価が高かったコンビに与えられるハードルの高さが象徴されていた。




【最終決戦】

NONSTYLE  <3> 3
パンクブーブー   <2> 1
笑い飯       <1> 2


【感想】
笑い飯のネタは以前に観たことがあった。パンクブーブーを推したい気持ちもあったので厳し目に鑑賞してしまった気がするのだけれど、それでも笑えた。あのアホさ加減全開の世界観とネタをもってきて、しかもうざいくらいに延々とやりつづける。このスタイルを押し通したところに心を動かされた。
ということで、笑い飯が1位。

パンクブーブーは惜しかった。優勝してもおかしくないネタだった。ひとつひとつのネタにきっちりとひねりを利かしたネタは、多くの芸人に浸透し始めている「軽いボケの怒涛の連発」とは一線を画した、彼らのスタイルとして確立してきていると思った。何度でも見たい、しかもきっと笑える、そう思わせる希少なコンビだとあらためて思った。

NONSTYLEは面白かったけど、やはり変化が少なかった分だけインパクトが弱かった。ただ、昨年に比べて、こうしたスタイルを面白く笑える理解ができるようになったのはNONSTYLEの漫才を観てきたからだと思う。




なんていう感想を書いてみたものの、結果はパンクブーブーの優勝!!!!!!!!!!



すごい! 感動した!



なんだかんだで笑いが多かったのが笑い飯だったというのと、ラストイヤーも含めたいろいろな事情を加味しても、笑い飯に優勝がいくのだと思っていた。ただ、結果はパンクブーブーだった。事前に「ダークホース」として挙げていたし、もう何年も前から決勝進出も優勝も、どちらも実現していてもおかしくないと思っていたコンビ。

数年前、はじめてルミネの舞台でネタをみて、「こいつら、面白い!」と強く印象に残った瞬間の映像が思い浮かんできた。あの頃は今よりもはるかに華が無くて、面白いんだけど人気はでなそうだな、と思っていた。でも、今では華もついてきて、人気もでてきている。今回の優勝をきっかけに、それも爆発するだろう。

極端に露出が上がる中で活躍し続けていくことは、喜びや楽しみや幸せと同時に、相当な苦しさもあると思う。それでも、今までと変わらずに面白いネタをばしばしと見せてほしい。そう、心から期待する。


ひとつだけ気になるのは、ふたりとも「ピンネタ」がおそろしく不得手だということ。R1での過去の成績はもちろんのこと、ライブで実際に披露された(特に「オモロー党」)ネタは、漫才の技量とは雲泥以上の差があることに驚愕したこともあった(^_^;


ま、それは置いておいて、とにもかくにも頑張ってほしい。僕と同じように思っているファンは、きっとたくさんたくさんいるはず。


パンクブーブー笑い飯。この大会を印象付ける最高のネタを披露してくれた二組に、あらためて感謝したい。







大会運営は、全般的に良かった。いつもは何かしら気になることがあるのだけれど、今回はそうした部分がなかった。というか、前回とほとんど同じになっていて、運営が安定してきたんじゃないかと思った。たとえば、大会ルールの説明で使用されたトーナメントのCGは前回とまったく同じだった気がする。

ただ、そうしたときは意外と注意が必要で、次回の大会である程度大きな変更がなかったら、縮小傾向に向かっている兆し。完成することは良いことではあるのだけれど、より良くすることがないというのは、特に最近の社会では飽きられることに直結する。

この大会は素晴らしいイベントだと思うので、ぜひとも継続できるように、さらなる発展飛躍につながる打ち手を期待したい。

M1 2009 事前予想

とうとう前日になった今年のM1グランプリ。

出場者は

・ナイツ
南海キャンディーズ
東京ダイナマイト
・ハリセンボン
笑い飯
・ハライチ
モンスターエンジン
パンクブーブー


で。予想。

本命:ナイツ
対抗:パンクブーブー
穴 :モンスターエンジン

正直、ものすごい適当。



・ナイツ
 二年連続で決勝戦にあがってきたのは、調子の良さの現れなんじゃないかと。ヤホー以外のネタで勝負してくれば、制覇の可能性は高い。

南海キャンディーズ
 バラエティで見せる山里の冴えは、今年に入って磨きがかかっていると感じていた。ひさしぶりの決勝は、はじめて登場した時のインパクトを超える面白さを期待したい。

東京ダイナマイト
 よしもとに移籍してからはじめての決勝。すごい面白いのだけれど、最近のM1の嗜好と彼らのスタイルには少しかい離がありそうな印象もある。

・ハリセンボン
 センスは抜群。ただ、漫才以外の分野に活かせるタイプという気がする。漫才も面白いとは思うのだけれど、トークやコントを観たいと思わせられる。
 上位に入るかどうかは、前回のネタを大幅に超えるような変化を感じさせるネタで勝負できるかどうか。

笑い飯
 年末の風物詩的存在になりつつあるような気が…。
 面白いのは確かなのだけれど、あまりにも浸透し過ぎたこの状態から優勝をかっさらうのは、他のコンビと比べるとハードルの高さがあまりにも厳しい。
 ダブルボケとはまったく違う新たなスタイルで勝負してきたら、とも思うのだけれど、ふつうの漫才のスタイルであったら彼らの力は活きないと思う。可能性があるとしたら、今までとは違う新しいダブルボケのスタイルを確立したようなネタがあれば…。

・ハライチ
 あまり観たことが無いのだけれど、笑えるネタではあると思う。ただ、漫才というよりは、ショートネタを3分用にしたタイプという印象。
 M1の審査員たちにどういう評価を受けるのかが、ちょっと想像つかない。

モンスターエンジン
 このコンビは笑いへの貪欲さが素晴らしい。昨年の漫才も僕は面白いと思った(優勝するには不足感はあったけど)。あの経験を踏まえてネタをくって決勝まで勝ち上がってきたのだとすると、突き抜ける可能性を感じる。

パンクブーブー
 もともと、2年前から決勝進出するコンビだと予想していた(サンドウィッチマンが敗者復活したとき、僕の事前予想はパンクブーブーだった)。それが今年、ようやく決勝進出。
 当時からいいネタをもっていて、2年間経過。今年が初登場ということを考えると、一気にかっさらう可能性もありそうな気がする。


敗者復活は、どこだろう。U字工事かな。もし彼らがきたら、上位3組に入る可能性はありえる。




なんて勝手なことを書いてみたものの。

全組、今年に入って一度も漫才を観たことが無い。漫才をやる番組が激減しているのと、漫才を観られるライブにいかなかったのと両方の影響でしょう。

ちなみに、後者は意図的にいってない。M1グランプリで初見で見られるネタとそうでないネタは、どうしても面白さに差が出てしまう。自分にとってできるだけM1が楽しめるようにするには、ネタが初見であった方がいい。その実感をもって決めたことだった。

とはいえ、テレビで漫才を扱うことが減っているのは、ちょっとさみしい。まあ、芸人にとってテレビで漫才をやることは効率が良くないというのもあるのでしょう。

そんな背景も含めて、今年のM1、1年間楽しみに待っていた期待をはるかに超える内容であって欲しい。

母なる証明

一か月ほど前に映画館で予告編を観た。そのとき、「この映画を観なければ!」という直感。今年に入ってから掴みつつある「映画のチカラ」、その理解をさらに一歩進めてくれる作品になってくれるんじゃないか。そんな期待が、切迫感のような力強さで押し寄せてきた。
そして、先日、その期待を確かめるような気持で、映画館に向かった。


まずは、オープニングで驚いた。風が強く吹きすさぶ中、穂足の長い草原。一人の老女が紫色の服を身にまとって、何かを探すように視線と足取りを揺らしながら歩いてくる。しばらくしたところでおもむろに立ち止まる。あたりをじっと、そしてゆっくりと見回す。感情が読みとれない表情はまるで能面のようだ。いくらか悲しさがにじみ出ているようだが…。観ていて、困惑が膨らんでいく。

そして、とある瞬間、この老女がゆっくりと動き出す。身体全体もくねりくねりと揺れ始める。腕を上下左右に、阿波踊りをとても丁寧に踊っているかのような軌跡で動かしだした。表情とは裏腹な明るさを感じさせるような所作に、さらに困惑させられていく。


映画を鑑賞し終わったとき、このシーンの意味が見えてきたような気がした。監督の本当の意図は僕には把握できないけれど、鑑賞した人それぞれの解釈、映画の味わいにつなげられるシーンであったように思った。



作品を鑑賞している間、ずっと胸に何かが突き付けられたような緊張感があふれていた。あらゆる場面で、「今この瞬間に、何かが起きる!」と感じ続けさせられる。身も心も休まることなく、「その瞬間」に耐えられるだけの準備をし、構えてしまう。しかも、その瞬間が起きたときは、身構えていた準備を凌駕する衝撃をくらわせられる。
韓国作品のもつ力強さが、如実に表れている作品だ。



主役の老女が、雨の中を走る場面があった。整備されていない田舎の道を、月明かりすらない暗い夜の強雨の中、合羽を羽織ってひた走る老女。息を切らしながら向かった先には、一軒の空き家。階段を昇って屋上に辿りつくと、さらに雨に吹きさらされる。屋上にできたいくつもの水たまりに突き刺さる雨粒。明かりのほとんどない山間に並ぶ村の家々。自分の息子の敵とばかりに、屋上から睨みつける老女。

僕はたしかに映画館の中に座っていた。このシーンを観ていたとき、腕と肩のあたりに降り注ぐ雨の冷たさを感じた。そして、体全体が、濡れた体が冷えていくような寒さを感じた。そして、老女の胸の内にひそめていたであろう心の暗闇に、震えた。



母の愛は、あたたかい。どこまでも慈愛に満ちている。と同時に、とてつもないほどの強靭さを兼ね備えている。揺れることはあっても、折られることは無い。だからこそ、子は母を信頼し、生き抜くことができ、生き抜かせてもらえる。

そして、それらはいずれも、エゴに支配されかねないものでもある。視野が狭くなり、最後には盲目的になってしまうかもしれない。倫理を超えたところに、母子のつながりを見出し、それを是と認めてしまったときに。



この映画、どう捉えたらいいのか、今になっても迷っている。タイトルから察さられることがテーマとも思えるし、そうではない何かも込められているようにも思える。正直、今の僕の力量では、よくわからない。

それでも、わからないなりにも、強く強く伝わってくる確かな何かがある。それは、人として世の中を生き抜いていくための、支えや軸となること。生きることの意味を考えるときに、決して欠かすことのできないこと。



後味の重い作品ですが、それを超えて「鑑賞する価値のある力強いメッセージ」を受け取ることができると思います。