スラムドッグ$ミリオネア

こんなにドキドキした映画はあまり記憶がない。ドキドキする映画はいくつもあったが、これほどまでに長い時間をずっとドキドキし続けさせられた映画は思い浮かばなかった。

僕がこの映画の存在を知ったのは、アカデミー賞のノミネートの後だった。受賞候補だったというのをきいてはじめて、どういう作品なのか調べたくらい。しかし、そこでストーリーを知った瞬間から、魅力にひきつけられた。

アカデミー賞受賞が決まってから、映画館での上映予告編を目にした。先入観もあったのかもしれないが、予告編でのドキドキやワクワクがこの作品ほどいい感じだったものはなかったように思う。これはきっと面白い、その確信が強まっていくばかりだった。

気になっていたのは、予告編の時点でハードルがあがりすぎてしまい、「本編をみたら…」という展開だった。無い話でもないので、過剰にならないよう少し意識をしたりもした。ただ、事前に耳にする知人の評判もあいまって、ハードルはどんどんと高まった。


そして、実際に鑑賞。その上での感想が冒頭部分。十二分に膨らんだ期待を、見事に超えた作品を目にすることができた。その場での楽しみを最大にしようと、事前知識をできるだけ抑えた。それでも、何かしら耳に入ってきた。エンディングの雰囲気がどんなものかというのを事前に聞かされてしまったときはどうなるかと思った。

でも、そんなこと関係なかった。すべてを知っていても、面白かったといえたと思う。それくらい、魅了された。



この映画の素晴らしさは、鑑賞感にある。僕自身が映画をみるときにいちばん大切だと思っているものだ。感情を揺さぶることや、気持ちのいい感覚を味合わせることも要素ではあるが、もっと全体的なこと。作品全体を通じて、どういう心持の変遷を持つことができ、その後味としてどういう気持ちを残すことができるか。そのデザインすべてが鑑賞感。だからこそ難しいのだけれども、この作品は大いに優れていた。


僕にとって印象深く残った「感情」はふたつある。

ひとつは「切なさ」。特に前半で感じたものだった。
社会の裏と純粋さが交錯する。無垢な属性を持ちながら、悪事に手を染めていく風景。しかも「手に染めていくことそのものが純粋」と思わされてしまう。豊かな暮らしを求め、ただひたすらにリスクあることに手を染めていく純粋な姿は、活発な行動や勢いのある音楽と合わさった上でもなお、切なさに襲われた。

もうひとつは「爽快さ」。この映画の最大の魅力のように思う。これを感じさせる要素はいくつもある。僕がこのまま書くと内容そのものに触れてしまうのであえて省略する(僕自身の記憶からは、おそらく離れることは無いと思うので)。
ひとつだけ書いておくと、学ぶことの爽快感と相通ずるもの。学ぶというのは、つながりを知ること。物語の流れから、この感覚ととても似たような快感を得られると思う。



この物語から思い知らされたのは、学ぶことの意義だ。人はなんのために学ぶのか。突き詰めた先にあるのは「生きるため」だと思う。生きるために学ぶと同時に、生きることで学ぶ。鶏と卵のような関係を生涯を通じて絶え間なく繰り返し続けること、これが人生なんだろう、と。

映画の主人公は、教育機会には恵まれなかった。が、物語を通じて知らされる彼の人生からは、学んできた質や量が劣っているとはとても思えない(かつ、優れているともいわない)。学ぶ内容の違いは、おそらくは、必要とする学びが異なるからだ。明日を生きることそのものを対象とするか、明日をどのように生きるかを対象とするか。

今の社会は、前者と後者の度合いがかけ離れていて、しかも圧倒的に前者が多いのだと思う。社会起業家を中心にこの不均衡をならそうとする動きはあるものの、まだまだこれからのことだろう。
この映画ではこのテーマへの答えを明快にだしていはいないと思うけれども、多くの人に考える機会を与えていることは想像に難くない。

僕自身がこの問題に対して何をするかというのは、まだ何もない。ただ、今年に入ってから特に、こうした話題に向き合う機会がとても増えている。何かあるのだろうという予感があるのは確かだ。



さて、この作品。冒頭に書いたように、本当にドキドキを味あわせてくれる作品だと思う。ストーリーのうまさもあるのだけど、何よりも演出が印象に残った。技術的なことはよくわからないけれども、キャラクターの置かれている状況や心情を、臨場感と俯瞰を組み合わせながら余すことなく伝えられてきたように感じた。

さらに思ったのが、音楽効果の高さ。僕はあまり音楽へのこだわりがない(過剰すぎると感じる傾向の方が高い)。でも、この作品については、音楽があってこその鑑賞感だと思った。映像に合っているというよりも、その効果を明らかに高めるものだったように思う。


他に、役者陣にも驚かされた。僕が覚えている限りでは知っている人はいなかったのだけど、素晴らしく魅力的だった。何よりも驚いたのは、その外観。老若男女問わず、その美しい姿に魅せられた。何よりも「目」に魅力があるように思う。インド系の方の特徴なのかはわからないけど、あの純粋さと怪しさを姉備えた眼力は、強烈なインパクトがあった。



タイトルからすると、「クイズ ミリオネア」のようなショー的・ゲーム的なスリリングさがポイントになる作品と思われてしまうかもしれない。しかし、この作品の魅力は、もっと「人が生きる」ということの本質・根幹にかかわること。痛々しいほどに辛く苦しい現実とともに、奇跡のような喜びや幸せ感があふれています。この両方があるからこそ、人は生き続けるのではないかと僕は思いました。


アカデミー賞8冠はただの宣伝文句ではなく、間違いなくそれに値する価値のある作品だと思います。

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  • アーティスト: サントラ,A・R・ラフマーン feat.マドゥミーター,A・R・ラフマーン feat.ブラーズ&タンヴィー・シャー,A・R・ラフマーン feat.スザンヌ,A・R・ラフマーン feat.スクヴィンダル・シン、タンヴィー・シャー&マハーラクシュミー・アイヤル&ヴィジャイ・プラカーシュ,M.I.A.&A・R・ラフマーン,M.I.A.,A・R・ラフマーン feat.アルカー・ヤーグニク&イラー・アルン,A・R・ラフマーン feat.パラッカル・シュリーラーム&マドゥミーター,ソーヌー・ニガム,A・R・ラフマーン
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