誰も守ってくれない

志田未来佐藤浩市らが出演、君塚良一監督の作品。モントリオール映画祭で賞をとっていたり、予告編から受ける印象もなかなか良かったこともあり、以前から鑑賞しようと思っていた。

この作品では、殺人を犯した兄を持つ妹と、その保護に当たる刑事の姿が描かれている。容赦なく襲い掛かり続けてくる世間の冷酷な仕打ち。報道の役割と権利を都合よく振り回してスクープを追い求めるマスコミ、自らは渦中に飛び込むことなく当事者たちを追い詰めんとする世間。犯罪者の家族に負わされる責任とはなにか、世間に与えられている権限とは何か。安全・安心な暮らしのために許されること・為さねばならないことは何か。

そうした状況の中、お互いに不安と不満がつのりつつも、その背景にある優しさや暖かさに気づき、思いやりと感謝が芽生えていく。

心温まるハッピーストーリーではなく、とてもどろどろとした重苦しい場面もたくさんでてきます。現在の社会での怖さや哀しさを味わうこともあります。一方で、それでも「人」に対する期待・望みもあらためて気づくことができる作品だと思います。



さて。鑑賞後、ストーリーそのものとは別に、思ったことがあった。それは「情報化によるリセットの難しさ」。

罪を犯したとき、償いが必要だ。そして、償いをまっとうしたときには、復帰・再出発を許容することも必要。許しがたい罪には、償いの重さに転換すべきであり、復帰の道を閉ざすべきものではないと思う。
※とはいえ、被害を受けた側にまわったときに同じ事を言える自信はない。ただ、罪を犯した人の中にも、復帰に値する人がいることも間違いないとは思う。


しかし、今の情報流通度合いの影響で、この復帰が強烈に難しくなっているように思う。ありとあらゆる情報が、ありとあらゆる機会を通じて、ありとあらゆる方法で取得できる。償った罪が過剰に蒸し返され、本来は社会に適切に生きることができる道を狂わせてしまいかねない。そんな怖さを感じた。

特に、今のネットはあまりにも「発信者側にとって都合がいい」状態にある。大群衆と匿名性をよりどころに、本来は備わっていない「強者の理屈」を振り回すことができてしまう。「セーフティ」に「卑下行為」を「面白おかしく」実行する。そこに「カッコいい」という価値観をもって。


人は過ちを犯す。潜在的に備わっているものなのか、偶然によるものなのか、根源的な要因はわからない。でも、事実として過ちは起きてしまうものだ。許されざる過ちもあるが、そうでない過ちもある。であれば、後者にはやり直す機会が与えられる社会であってほしいと思う。

※自分自身、こう書いていて割り切れないものもすごく大きく、ジレンマを感じている。とても難しい。



では。こうした過剰感のある情報社会のなかで、折り合いを付けられるようにするにはどうしたらいいか。ちょっとだけ考えてみた。

思ったのは「情報をオープンにする」ということ。

今のネット(というか、人のサガといってもいい気がする)は、「世の中に出回っていない情報をいち早く書き込む」ことでランク付けされている。「知らないから知りたい」という欲求だけで動き、価値が根付けされる。であれば、最初から多くの情報が示されていれば、炎上的な騒ぎを抑えられないかなぁ、と。

どこまで何をオープンにしておくかとか、何かしらほじくりだすことはあるとか、言い出したらきりが無いことでもある。ただ、自分で出すのと、勝手に掘り起こされるのとでは、受けるダメージが違うとは思う。


もうひとつは、オープンにすることで、自らの規範につながること。パーソナルが知られている場では、礼節を欠く行動は慎みたくなるのではないかと。「勝手知ったる」とばかりに無礼講に流れることもあるかもしれないが、愛嬌の範囲にとどまることが多そうな気がする。


そして、オープンにしたことによる「つながり」が支え合いを生み出すこと。相手を知っていると、何かしら絆が生まれる。この絆は、偏った(あるいは誤った)情報で判断を狂わせない、大事な軸になる。何よりも、償いの価値を適切に認める拠りどころであり、復帰を支えるエネルギーになる。


オープンにすることは、とても怖い。今の世の中ではまだ、ポジティブではない面が大きすぎると感じてしまう。社会的にも制約をかけていることも多い(実名ブログを禁止する企業とか)。でも、オープンにする方向に進むことを考えておく必要があると思う。今は、きっと、昔の「村」が極端に大きくなってきている感覚。であれば、同じ村の人については知り合えるようになっていく方が自然だと思う。



過ちの扱い方については、「情報」とは別の視点からアプローチすることも必要だと思う。今回は考えないですけど・・・(^_^;


作品の内容そのものの感想は、ちょっと控えめにしました。感想が少なかったからではなく、まとめにくかったのと、僕自身どう捕らえるべきかかなり迷っていたのと。


ただ、ストーリーも演出も、出演者たちの演技も十分に堪能できる作品だと思います。エネルギーが弱いときにはちょっと刺激がしんどいかもしれませんが、一見の価値はある映画だと思います。