WALL・E ウォーリー

とても観心地の良い映画だった。

みる前はもっと子供向けの映画になっていると思っていた。実際、観客も子供が多かったし。ところが、実際に鑑賞してみたら、十分に大人の鑑賞に堪える内容になっていた。さすがディズニー、そしてPIXAR


まず驚いたのは、CGのクオリティー。いまどきのCGはこれくらいやれるものかもしれないけど、リアルさとバーチャルさの加減が絶妙だったと思う。
ウォーリーのさびつきや汚れ、地球の様子(地肌や廃墟などなど)はものすごくリアル。相方のイブの存在はファンタジーなのだけど、質感がものすごくリアル。
いっぽうで、登場してくる人間はあからさまにアニメーション。コミカルさをだしていたり、非現実感をわかりやすくしたかったのもあると思う。

※ちなみに、このイブのスタイルは、ロボットの捕らえ方としてものすごく斬新だと思った。こういう描き方をしていたものはなかったと思う。これを生み出せたのは、本当にすばらしい想像性・創造性だと思った。


非生物をリアルに、生物を非リアルに。この描き分けが、この映画が描きたかったことを、よりわかりやすくするための最大の工夫だったのだと思う。これは見事にはまっていた。



CGの描き方のような見た目のインパクトの一方で、内容も実にいろいろと織り込まれている。この映画が子供向けではないと思わせる最大の要素でもある。

かなりあからさまに風刺調で描いているこの物語。なかでも特に印象に残るのは、変化に対する姿勢。機械と生物の区分けは、本来この視点で行われるものなのかもしれないと思った。


変化への向き合い方について特に印象に残ったシーンが3つある。

ひとつは、ウォーリーがイブを追って宇宙船に乗り込むところ。
何かを変えることになるもっとも手っ取り早いきっかけが、ここに描かれていたと思った。それは、「自分の大切なものに巻き込まれる」ということ。無我夢中で追いかけていたら、もともと変えようなんて思っていなかったことを「いつの間にか変えてしまった」という状態にもっていくこと。

物語でのウォーリーは本人も、巻き込んだイブも、どちらも環境を変えることを狙っていたわけでも期待していたわけでもない。でも、本人ないし相手が「変えることを期待して巻き込む」ことができたら、それはとても素晴らしいと思う。気がついたら境界を踏み越えていた、というのがいちばん幸せ度が高い気がする。
※ただし、変化が前に進むものであることは必要ですね。


ふたつめは、宇宙船で働いている機械たちの姿。
動線のようなレールの上を動くようにプログラムされている世界観。しかし、ウォーリーはこのしきたりをもっていない。ウォーリーの後始末をするために、このしきたりを超える、という場面があった。

自分の今の立ち位置をふと見渡してみたときに、今いる場所も、これまでに通ってきた道も、これから通るはずの道も、すべて敷かれたレールの上でしかなかったとしたらどうだろう、と。選択肢はある(あった)けど、それはレールの分岐点に過ぎなかったかもしれない。

この事実に気づいたとき、どう受け止めるか。そして、どう行動するか。

レールの上を歩くのも、それはひとつの人生だと思う。少なくとも否定されるものではないと思う。ただ、レールの外の選択肢に気づくこと、そしてその上でレールの上に残るか否かを決めること。この過程を踏まえたかどうか。


みっつめは、変化に直面したとき、その後の人生をどう進めるかを選ぶ場面。
これを書いてしまうとかなりネタばれになってしまうので、やめておきます(^_^

ただ、この姿には、日常に接する自らを含めた多くの人々のありがちな反応が見られます。また、そうしたときにどうふるまうのか、というあたりも。

いずれも少しステレオタイプだったり、ちょっと都合よすぎるかなぁ(軽すぎるかなぁ)と思うところもあります。でも、十分に理解できる範囲だと思うし、日常での心構えはそれくらいのつもりでいたほうがいいのかもしれない。



この映画、もうひとつ印象に残ったことがある。それは、ストーリーの作り方。

これだけ手間隙をかけて作られた映画(映像のつくりを見ただけでも十分に伝わってくると思う)。さぞかし手の込んだしかけを張り巡らして、新しい発想を盛り込みまくった映画かと思いきや。

実は、すごくオーソドックスに作られている。物語の展開も、ひとつひとつのエピソードも、イブの姿のような斬新さとは相反するくらいオーソドックス。悪い言い方をすると、ありがちなエピソードを、教科書的なフォーマットで作成した、という感じ。

でも、これがものすごい。どこかでみたことのあるエピソードを、どこかでみたことのある組み立て方をして、全体としてみると新しい作品・物語として受け入れられるものになっているのだ。これ、かなりすごいことだと思う。

しかも、こうしたオーソドックス感は自分の好みともどんぴしゃだった。なので、一般的な評価よりも高く評価しているとも思う。

とはいえ、そのあたりを差し引いても、十分に素晴らしい作りになっていたのは間違いない。



なんとなく、ETの世界観に近い映画かもしれません。あの映画ほどのヒットはしていないようですが、質的にも劣るものではないと思います。観ようによっては二番煎じに捉えられてしまうかもしれませんが、多くの方は楽しめる作品だと思います。

ちょっと荒い(特に後半)部分もありますが、きちんと盛り返してくれます。観終わったときの後味のよさは、きっと良い年末につなげてくれる映画だと思います。

年始に向けて心をきれいにクリアしたい方、ぜひ鑑賞してみてください(^_^