P.S.アイラヴユー

懐古と前を向くことの両方の大事さを感じることが出来る映画だった。

この作品、予告編からすごく気になっていた。夫を亡くなってから手紙が届くというのは、とてもひきつけられた。原作もヒットしたという触れ込みもあって、すごく期待があった。

そして、ひとつ思い出したことも影響していた。それは、自分の余命がわかったあと、子供にビデオレターを残した男性の話。子供が誕生日を迎えるたびに1巻ずつビデオを見せるようにというメッセージの伝え方は、すごく心に残った。


物語から伝わってきたちばんおおきなことは、愛する人に向ける思いとは何か、ということだった。

自分が愛している人、自分を愛してくれている人に対して、自分がいなくなるときに何をすることがいいのか、何をすることが出来るのか。答えは簡単に見つかるような気もするのだけど、そう簡単にたどりつかなそうな気もする。
それは、たぶん「たどり着く答えが、自分の気持ちに必ずしも一致しない、相反するものかもしれない」ということと「これが答えだ、と確信を持てずに思いが巡りまわる」のではないか、ということ。


自分が愛する人のそばから離れなければならない。しかも、それは自分自身にとって人生最後の役割の場面。そんなとき、何を考えられるか。ここにひとつの壁があるのだと思う。それは、考えるときの視点が「自分が死んでしまうこと」に置かれてしまわないかどうか。

死ぬというのは怖いことだ。今、自分の手に幸せがあるのであれば、なおさら。そんなとき、それを失ってしまうことの怖さに目が向いてしまうのは、やむをえないと思うのだ。

もし、自分が幸せを失ってしまうかもしれないという怖さから逃れられたとしても、もうひとつ壁がある。それは、この世に自分の証・軌跡が残って欲しいという願望。
歴史に名を残したいという野望めいたことではなく、自分が大切に思う人にとって、自分が大切な人として記憶されていて欲しい、という願望。「忘れられたくない」「忘れて欲しくない」という願望といったほうが近いのかもしれない。

その壁を乗り越えてもなお、山はある。
それは、相手を幸せにするのは、自分でありたいという思い。今、自分を通じて生み出すことができている幸せ、それは自分自身が提供し続けたいという欲求。相手を幸せにできるのは、自分なのだと信じたい欲求。


自分が直面したときに、最初にでてくる気持ちは、きっと「相手のためになること」が浮かんでくると思う。幸せであればあるほど。でも、その思いを探り深めるなかで、それと合わない気持ちが湧き上がってくるかもしれない。あるいは、実際にその気持ちに押さえ込まれてしまうかもしれない。

人は、心の奥底のどこかには、きっと相手の幸せを願う気持ちが根幹にあるのだと思う。それだけがすべてかどうかはわからないけど、大きな範囲を占めているものだろう、と。でも、その思いに真摯に向かい合うまでの道のりはとても険しい。


しかも、そうしたものを乗り越えてようやくたどり着いた答えが、本当に正しいのかどうかわからない。自分にとっては答えかもしれない、世の中的には答えなのかもしれない。でも、それが相手の幸せになると信じぬくことができるか。
自分の考えが正しくても、相手に伝わらないかもしれない。受け止めてもらえたとしても、考えたことが思ったとおりの結果にならないかもしれない。

そうした不安を払拭して、自分と相手と世の中を信じて、思い行動にし、残った人々に託すことができるかどうか。


この物語では、この葛藤は描かれていない。その後のことを扱っている。でも、あらゆる機会を通じて示される亡き夫からの思いがこめられたイベントから、映像にも物語にも描かれていない葛藤を乗り越えた様子を感じたのだった。
そこまでの道のりを経てもなお、残された妻に対する、愛にあふれたプレゼント。そして、すべてを言葉に落としていないだろうけれども、夫が抱いていたであろう思いの何もかもが感じ取れるような手紙。

それらは、自己犠牲にもとづくものではなく、ただひたすらに相手の幸せを願う気持ち、愛にあふれたものだったように思った。



こうした思いは、残された側の立場からも丁寧に描かれている。僕は、作品の設定の影響を強く受けたせいか、無くなった夫側の立場からの気持ちがとてもつよく伝わってきた。

残された女性が悲しみに伏し、どうにか乗り越えようと奮闘しても気がつけば相手の影を感じてしまうもどかしさ。にもかかわらず、現実に生きていく中で薄れていくことから逃れられない心と体に苦悩する。そうした中からも、いくつもの驚きと喜び、ぶつかり合いや心の通じ合わせを感じながら少しずつ前向きに生きていく気力をつかんでいく。

そして、何よりも大切だったのに、目の前の出来事にとらわれすぎて振り返ることができていなかった過去に向かい合う。愛する相手との素敵な思い出を通じて、自分の夢と希望を見出し、また一歩を踏み出していく。


他にも、まわりのサポートの大切さも描かれている。でも、この作品の大切な要素でもあるので、ここでは書きません(^_^



実際に映画を見るまでは、個人的には、もう少し違った色合いで物語をつくったり表現したりするイメージも持っていた。そういう意味では、自分の好みとはちょっと差があった。

でも、そんな自分でも、十分に心を動かされる作品だった。周りに観客がうまっている午前中の都心の映画館でなかったら、泣いていたかもしれない(^_^
実際、映画の上映中も、上映終了後にも、鼻をすする音がいくつもきこえてきた。近くに座っていた女性は、ハンカチがなかったら辛かったんじゃないかと思うくらいだったり。


自分の幸せに大切な何かがある人にとって(それは夫婦や家族といった関係でなかったとしても)、これからの人生を過ごす上でのひとつの示唆が得られる作品だと思います。