崖の上のポニョ

宮崎映画。ハウルは映画館で観なかったので、千と千尋以来の鑑賞。かれこれ7年くらい経つのか。早い。

この作品。世間の評価は、いまひとつつかめないままに観にいった。ハウルの時と比べると批判的な意見はない一方で、傑作という話もあまりきかない。実績がありすぎると話題先行になりがちなことは多いので、今回はどうなんだろうと期待と不安がともに高かった。


で、観てみた感想は。
良かったと思う。宮崎映画らしさとか、映画的な映画の出来具合の評価とか、そういう観点からすると感想は変わるかもしれない。でも、僕は良作だったと思う。

かといって、抜群にすごい作品だともいいにくい。それは、試行錯誤感がそこそこに多く残っている感じがしたから。この映画に込めたかったのだろうと感じたものはいろいろとあったのだけど、みっちりと伝わってくるほどではなかった。


この映画、すごい難しいのだ。というか、不親切といっても良いかもしれない。それが、この作品の面白さや魅力でもあり、作品として消化し切れなかったのではないかと感じさせるゆえんでもある。


ひとまず、感じたことを書き並べていきます。


■映像とストーリーに「原点回帰」と「挑戦する魂」を感じた
この作品は、これまで宮崎アニメが発展させてきたものと、相反する要素が感じられた。

ひとつは、映像づくり。以前は、作品が進むにつれ、細やかさや色合いなど、アニメの映像表現可能性を追い求めるような印象があった。それは、常に新しい方向を目指していた感じがする。

しかし、今回の作品は、それとはちょっと逆だった。もっとアナログ的な表現技法を活かそうという意志を感じた。リアルな映像に近づけるのではなく、より心象に直結するような表現を使おうとしたのではないかと。僕の印象は、「以前の作品は西洋画であったりCGであったりしていた」けど「今回は日本画的な雰囲気を感じた」というもの。本来は目に映らない「線」を強調して使う、とか。


ストーリーについては、展開の早さが、昔の作品的な印象を感じた。現代の作品は、基本的に緻密なストーリー性が求められる。観客に「なぜ?」と感じさせて作品に入り込めないことにならないよう細心の注意が払われている。でも、昔の作品をみると、けっこうぶっ飛んでたりする。この映画も、そうした感覚がちらほらあったのだった。

ある種の不親切さというか、観客がおいてけぼりをくらっても構わないという思い切りというか。けっこうはっきりとした覚悟をもっていたんじゃないかと思った。


ここに書いたことは、おそらく、宮崎監督が自ら積み上げてきたものを、少なからず否定しなければ取り組めなかったことなんじゃないかと思う。もうちょっというと、かつて自分が否定してきたことを肯定しなおすくらいのことまで必要だったんじゃないかと。

かといって、旧来の技法に戻ったというわけではない。発展の方向性をそちらに切り替えたという感じだと思う。映画をみていて、水・光・ゆがみの表現をみていて、そういったことを感じた。


■無邪気・純粋の幸せと悲しさ
登場人物たちの多くは、とても純粋で、言動もすごくわかりやすい。なのだけど、少し見方を変えてしまうと、大いに印象が変わってしまう。
映画の世界観をそのまま素直に受け止めると、とてもハッピーな話の流れに乗って見ることができると思う。でも、少しずれてしまうと、印象が一変する。

僕がそれを感じたのは、ぽにょが人間の姿を手に入れるあたりから、波の上を走って会いに来るあたりまでの展開。笑いや冒険的なドキドキする気持が沸いてくるシーンでもあるのだけど、すごく悲しさがこみ上げてきた。

それは、「彼らにとって、これは幸せな人生なのだろうか」というようなところで考え込んでしまったからかもしれない。ネガティブな視点で見てしまったことが悪かったのかもしれない。こうした見方が製作者たちの意図されているのかはわからないけど、僕自身はすごくこみ上げてくる感覚を憶えた。
ちなみに、この感覚は、ラストシーン近くでも感じた。



望むものを手に入れるとき、どれくらいの枷が必要なのか。枷とは「壁の高さ」と「乗り越えるのにかかる時間」、そして「失うものの大きさ」。何の苦労もなく身についていた魔法であっという間に手に入れるもの、大きな苦難を乗り越えて秤にかけられないほどに大切なものを犠牲にして手に入れるもの、大変なのだけどひたすら楽しみながら手に入れるもの、などなど。

このバランスを決めるのが、純粋さや無邪気さに関わっているのかな、と。純粋さと相対する意味での「賢さ」を身につけていくことで、枷との向き合い方が変わってくる。今の世の中は「枷をいかにたやすいものにするか」が焦点になっていることが多い。それは、必ずしも悪いことだとは思わない。

でも、きっと、それによって何かしらの犠牲を払っていることもあるのだと思う。そこまできちんと天秤にかけた上でどちらを選ぶのかを決められること。これからの世界を生きていくに当たって、実はいちばん大事な要素のひとつになるのかもしれない。



ちょっとうまくまとめられていないのだけど、こんな感じでしょうか。鑑賞する前に抱いていたイメージとは違っていたと本音です。それは、残念に思った部分もあれば、驚きにつながったものもあって、ちょうど相殺されて期待レベルはクリアーしていたと思います。

鑑賞したときの自分自身の状態なんかによっても、感想は変わる作品だと思います。絵柄から「子供向けに切り替わった」と思うことなく、観ることで何かしら得られることがあるはず。

あと、個人的には、この路線で2〜3本作ると、これからの宮崎スタイルとしてわかりやすくイメージできる映画が観られるんじゃないかと思いました。年齢の壁はあると思いますが、ぜひ、次回作もつくってもらいたいです(^_^