クライマーズ・ハイ

仕事への向き合い方について考えさせられる映画だった。

 ・死ぬ気でやり切るくらいのめりこめるものか?
 ・権謀術数にまどわされず自分自身の思いを込め続け、成し遂げられるか?
 ・仕事以外の大切な何かをなくしていないか?

この映画は「歴史に残る史上最大最悪の航空機事故」という非日常の場面を描いているので、こうした場面がたくさんでてくる。だから、この作品の風景をそのまま自分の仕事の様子と比較することは、あまり適切ではない。でも、それをわかった上でもなお、ある種のうらやましさや憧れ、それと同時に悲しみや恐れを抱くものだった。


■この作品を通じて伝わってくるいちばんの要素は、仕事に立ち向かう執念。
身を粉にして働き、身も心もおかしくなりかねないほどに負荷のかかる任務を担う、あるいは今後のキャリアを棒に振りかねないほどの勢いで上司・同僚・部下とぶつかり合う。自らの存在意義を試されているかのように、大きく重いプレッシャーを自ら抱え込み、突入していく。
その姿は、まるで、戦場に行く兵士。個人ではどうにもできないような大きな出来事と合間見えることのできる恍惚感を味わいながら、それを帳消しにするほどの深い悲壮感に襲われる。自らの一挙手一投足をひとつ間違えることで、大変な損害を与えかねない怖さ。こうした想像を絶する重圧の中で、与えられた、あるいは自ら勝ち取った役割を遂行していく。
これらを支えるのは、何かを達成することへの欲求。もまれ、踏みしだかれ、生えたくても成長したくても、なかなか前に進めずに鬱屈して溜まり続けたエネルギーが、噴出する機会を見つけて一気に放出に向かう。麻酔を超えるほどの麻痺が動き続けることを支えているかのように。


■人が集まって生きるところに生まれる嫉妬、これに対処する難しさ
人が集まり組織ができたとき、そしてさらにそこに歴史が刻まれたとき、必ずヒエラルキーが生まれる。それは、もともとは必要性があって、合理的であり公正であるヒエラルキーが生まれたものであるはず。
しかし、気がつけば、それは必ずといっていいほど、成長・発展のブレーキにつながる動きになる。正確には、新陳代謝を停滞させる。やる気や才能に満ち溢れ、夢や野心や志の高い若い芽を徹底的につぶす。手にした権力が脅かされることのないよう、従順で自らの制御ができるものにおさまるように手を尽くす。
どんなに手を尽くされても、戦い続け、這い上がり続けることで、いつかは超えることができるかもしれない。そう信じ抜き、実行し続けることができれば、本当にそうなるかもしれない。でも、それは層簡単なことではない。それを貫くには、結果がいる。結果を出すには、抵抗だけでは足りない。
どんなに悔しくても、ドロを喰わされるような思いをしなければならなくても、自らの思いを達するためであれば、何かを捨てる、あるいは変えなければならないこともある。抗い続けてもどうにもならないほどの権力を思い知らされたときに、どれだけの行動につなげることができるか。心も体も、いずれも維持し続けることができるか。


■極限まで追い込むのも、ニュートラルに引き戻すのも、人との関わり
思いが強ければ強いほど、必ず個人差が生まれる。個人差は、こだわり。完成度の高さを求め合うほどに、その差は広がる。どんな場合でもその達成に向けて逃げない姿勢を貫いた場合、そこには必ずぶつかり合いがうまれる。
このぶつかり合いによって、棘が磨かれあい、丸みが生まれる。一方で、削りあうことで、新たな棘がつくられる。この繰り返しによって、みなの思いが詰め込まれた完成形が生み出される。どうにもできなくなって妥協したとき、そこには誰のものでもない成果だけが残る。
ぶつかり合いといっても、対立することだけがすべてではない。賛同し、支える役割も必要。「こいつの完成形をなんとしても実現させてやる」という思いで関わる人間がどれだけいるか。最後の最後に判断しなければならないとき、こうした人々の存在があればこそ、信念に基づいて邪念に惑わされない決断ができる。


■自立した個の集団であることが基本
組織として力を発揮できることの、もっとも根幹となるのは個人がしっかりしていること。緊急事態となったときに、誰に何を言われることなく、自働的にすべての人間が動き出し、漏れなく無駄なく可及的速やかにことに対処できる。自らの責務を全うするとともに、まわりにも適切に視線を振りまきながら、時々刻々と作業をこなして成果を積み上げていく。
大事なのは、信頼を裏切るよな振る舞いをしないこと。自らの任務をないがしろにするような手抜き、誰かの成果を貶めるようなふるまい、気遣いを超えた過剰な介入。こうしたことをやってしまうと、自律性が効かなくなる。
目指すべき姿を同じくして思い浮かべ、必要となる情報を必要とする人間に適切に共有しあい、最高の能力を発揮して成果を生み出す。


この作品のなかでは、こうした姿勢で取り組むことで、いくつかのものを失ってしまう。それは、おそらくは、望ましくないものばかり。失わなくて済むのであれば、そのほうが間違いなくいい。
※これについては、別の日記で書きます。


しかし、それでもなお、のめりこんで打ち込むことができる。それは、人生にとってかけがいのない経験になるものだと思う。自分が生きていた証といえるもの、人生でやり遂げるべきことのひとつだったと言い切れるもの。そういうものを何かしら残す機会を見逃さず、掴み、やり遂げたいと思う。