マジックアワー

三谷作品の最新作。


この作品もまた評価がわかれそうな気がする。僕自身どう思ったかというと、両面の評価を感じた。 


まず、いわゆる三谷作品をイメージしていったところからすると、ちょっと期待とはちがっていた。なんというか、笑いのポイントというかちりばめ方というか、その辺がずれていたのだった。
なんというか、もっとお笑い色が強いイメージがあったのだけど、控えめだったような気がした。もう少し正確に言うと、メリハリ度合いが強くなった。笑える要素が連発する部分と、そうでない部分の密度がはっきりとわかれていた。


これまでの僕の印象だと、もうすこし分散していた感じがあった。だから、まんべんなく笑ったような印象を持つことが多い。でも、この作品については、笑いの無い時間帯が意外と多い。


たとえば、冒頭のシーン。あまり笑いどころがでてこない。まるで「ん? 笑いに来たんだけど」という観客の欲求を高めるだけ高めるかのように、ひっぱっているように思えるくらい。むしろ、逆の気持ちをいだかせるようなシーンさえ混ぜ込まれている。


しかし、だからこそ、といえるくらい、ためきったところで繰りひりげられる三谷コメディ。それまでに溜まった微妙な鬱積感もなんのその。しっかり笑わせられた。



このあたり、今回の作品は「(正統的な)喜劇をつくった」ということなのかもしれない。もともと広い層が楽しめる作品が作られてきたとは思うのだけど、さらに幅広い、それこそ誰でも笑える楽しめるところを目指したのではないかと。
で、結果的に、それは「これまでの三谷ワールドとは異なるもの」として感じられるものなのかもしれない。特に、三谷作品独特の雰囲気が好きだった人には、そう感じやすいような気がする。




もうひとつ印象に残ったのが、丁寧な描き方。上の笑いの部分とおそらく関連しているのですが、ひきこむための演出というか、細かな要素をかなりしっかりと描いている。もともと緻密な脚本と作りをする三谷監督ですが、僕にとっては今回の作品は、この辺をいつもより強く感じたのだった。


先ほど触れた冒頭シーンがまさにそれで、この作品の本題に入るまで(もっというと、最後の最後のシーンを終えるまで)につながることをすべて織り込んでいる。それは、伏線を楽しむといういつもの三谷作品的な面白さだけでなく、いかにしてこの作品に観客として引き込まれていくか、ということをすごく考え抜いて作られていたかのように感じた。



そんなこんなあって、「満遍なく笑い続ける」という期待は満たされなかったものの、いつもとは一味違った作品・描き方の刺激を感じることができたという両面の評価を得たのでした。




もう少し補足を加えます。
この映画、かなり海外を意識しているのだと思う。


いちばん気になったのは、字幕。映画の評価そのものとは関係ないので上には書かなかったのですが、僕の感覚だとすごく邪魔。字幕なしでもわかるのに字幕が出てくると、そちらに気が行ってしまう。だから、集中がそがれやすい。
とはいえ、これは、すべての国で上映されたときにできるだけ近い印象で観られるようにしているのかもしれない、とも思った。
※耳の不自由な方への配慮もあったのかもしれません。それが趣旨であれば、これからの映画の道筋を探る試みとして、ありだと思います。



そして、笑いのエッセンス。これも海外を意識しているような印象を受けた。なんというか、ホームランをあまりいれてない気がする。自国以外の国で笑いを成功させるにはこの考え方はけっこう大事だと思われるので。
極端なことをいうと、Mr.ビーンオースティン・パワーズが受けているのに近い。もちろん、この作品ではもっと日本的で三谷的な笑いをベースにされているから、これまでのコメディとはまた一味ちがうものなのだとも思う。


ストーリーや演出にもわかりやすさを優先したような印象もあった。たとえば、これまでの作品とくらべて、伏線がわかりやすい。以前の作品だと、伏線が明らかになったときに「あぁ〜、それか〜」と思うことも多いのですが、今回はけっこうあからさまに見せているものが多かった。
演出も奇をてらったものはあまりみられず(これは、過去の作品もそうかもしれないけど)、いつも以上にオーソドックスな印象が残った気がした。



作品の内容のほかには、役者の印象もよかった。
特に印象に残ったのは、佐藤浩一と深津絵里
佐藤浩一はこんなに演技ができるんだな、とあらためて思った。コメディの演技はもちろんのこと、哀愁漂う中年の姿もしっかりと演じていた。あらゆる場面で、この人物の気持ちが伝わってくるような感じがした。
佐藤浩一って、実は本当にこんな感じの人なのか、と思うくらい(^_^


深津絵里は、小悪魔性のあるキャラクターだったのだけど、これも見事。テレビドラマでは、弱弱しい天然的なキャラクターや仕事をがんばるツンデレ的なキャラクターの印象が強い。今回は、どちらでもなかったように思えた。それを、これまたまるで本当にそういうキャラクターなんじゃないかと思えるように演じていたと思う。
あらためて好きになりました。


寺島進の配役も実はかなり印象に残ったのですが、これはぜひ作品をみてもらいたいところ。




僕にとっては、「過去の三谷作品を通じた最高傑作」とはなりませんでしたが、観てよかった。このところのテレビ番組では、三谷作品ラッシュになっているようなので、その流れで見に行ってみるとまたちがった印象をもたれるかもしれませんので、ぜひ(^_^