譜めくりの女

ちょっとネタバレするので、未見の方はご注意ください。とはいえ、予告編を見れば想像がつく程度に抑えているつもりですので・・・・。


なんとも怖さのある映画だった。でも、それは映画としての出来がとてもよいからこそ味わうことが出来たものだと思う。


この作品の大きな柱は「復讐」。幼き日に抱いていた夢を、何の意味もわからないような出来事で邪魔され、諦めることになった少女。成長した暁に、その思いを晴らすべく、当事者に接する。


僕が最も怖さを感じたのは、考える力。
僕は、何かを成し遂げたいと思う人には、その真剣度に比例して考える力がやどっていくものだと思っています。達成するために、どうにかすることをひたすら考え続け、かつ手を打ち、失敗と成功を繰り返す過程で自然と身につけることができる。そうして、思いを達成することができる、と。
ただ、この感覚は、ポジティブな面にのみフォーカスを当てている。この映画では、これがネガティブな面にフォーカスされていたときにどうなるか、という様子が描かれていたのだった。


映画全般のシーンで、随所にそういう印象を抱く。
 ・少女時代の夢であったピアノをばっさりと捨てて取り組んだ
 ・何手も先を見越す戦略的な行動をとっている
 ・目の前の「情」に左右されることなく遂行している
いずれも、目的と目標を明確にし、考えに考えつくすことで、ようやく得られるものばかり。映画で描かれる具体的なエピソードを見ることで、より一層怖さが伝わるのではないかと思う。


そして、この状況を見ている中で浮かんだ言葉があった。
「正義なき力は無力」

本来は武力に類する力を対称にするのかもしれませんが、あらゆる力においても同じだと思う。どれほどに優れた力を身につけていても、不正に利用する限りはその効力は発揮されないものなのだ、と。

ただ、この映画のように、力が効いてしまうこともある。社会生活では、どうしても「善」「悪」がはっきりしないことがたくさん起きるので、臨まざる方に力が発揮される可能性は避けられない。
だからこそ、力を身につけた人は、「正しい方向、望ましい方向をつねに把握する」ようにつとめなければならない。と同時に、その方向に力を発揮していくこと。

僕自身、「力を身につけること」と「発揮するべき方向を把握すること」、どちらも不足した状態にあります。これからも努力と研鑽を重ねて、誤った流れに乗ることなく、成長していきたいと思いました。


さて、ちょっと映画のことに話題を戻します。


・観る人によって、抱くポイントが変わる
 僕の場合、考える力を中心にした怖さがひっかかりました。しかし、この作品については、人によってひっかかりのポイントが異なりやすいと思いました。
 「復讐」、「トラウマの影響」、「家族愛」、「罪とは?」「罰とは?」・・・・。
 

・主人公の表情
 主役を演じている女優、すごくなんともいえない表情をしている。喜怒哀楽を少しずつ混ぜ込んだような。ぱっと浮かんだのは、「モナリザ的」という表現でした。
 しかも、この表情がニュートラルの状態で描かれていて、女性のキャラクター・背景・感情の深さを感じさせるものだった。


・延々と続く不安感
 冒頭から終わりまで、ほとんどのシーンを通じて、不安感がまとわりついていた。役者の演技、風景、色合い、ストーリー、音楽、等々。あらゆる効果を利用して、ピーンと張り詰めた状況を続けていたように感じた。



あとは、エンディングも思わせぶりなものとなっています(良い意味で)。くみ上げたピースが完成するとともに、完成した絵図を見てもよくわからない絵柄が残っていたり。
僕は、主人公が封印を解く姿を描くのかなぁ、と想像していました。


いずれにしても、見ごたえのある映画でした。