「社会を変える」を仕事にする

(1)内容
社会起業家。あまり聞きなれない言葉だが、なんとなくイメージはわかなくもない。
ただ。本書に描かれているその実情は、イメージとは異なる部分も多かった。


■きっかけは身近なところから
 ふだん、何気なく過ごしてしまうところに、大事なことが潜んでいる。著者のビジネスも、母親との何気ない会話(お客さんから「子供がいるために、仕事に制約がでてくる」という話をきいた、とか)からだった。
 書籍の主旨とは離れてしまうけど、「(大事なことに)気づかないから」という理由ではじめないということは、ほとんど無いと思う。多くは「自分が取り組むことか?」という疑問や「自分がやることではない」という前提を持ってしまっていることが理由だと思う。
 やらないことは間違いではないと思うので、それを責めるつもりではない(実際、自分も行動してないし)。ただ、「それを意識しているかどうか」ということで、取り組んでいる人たちに対する味方が変わると思う。


■はじめるときはエネルギーと覚悟がいる
 いちばん大きなことは、「すでに持っているもの」を捨てないといけないことにあると思う。
 特に、いまが「自分にとってメリットが大きかったり、安定していたり」するとき。かつ、いまストックされているものが「今後も安定させられる」ほどでないとき。
 普通のベンチャー企業だと「リスクとリターン」ともに経済的に身に還ってくる。しかし、社会企業だと、リスクは経済的である一方、リターンは必ずしもそうでもない(少なくとも、実際にはじめるまでは、そういう印象のもとで動くことになると思う)。
 ここを乗り越えるためには、活動の目的・意義をどれだけ「骨の髄まで」持てるか、に尽きると思う。もちろん、最初からそこまではいかないにしても、ゆくゆくはたどり着くものでないと、続けることはできないと思った。それだけに、理念やビジョンが通常ビジネスよりも大事になるというのが理解できる。


■世の中は、社会起業にネガティブな反応をしやすい。
世の中、社会起業によるサービスのニーズはいろいろとありそう(行政の代替サービスをしてもらえるのであれば、喜んで利用するケースはたくさん意見が挙がってきそうな気がする)。
しかし、世の中の反応は、基本的にその反対の方向に動くことも多い。
 ・行政の協力はなかなか得られない。
  申請を受付けてもらうのに、役所の一般的なビジネス感覚からは明らかに外れた応答を受けることもあるらしい(市民活動に対する過去の遺恨(しかも申請者本人とは関係ないもの)から派生して却下されてしまう、とか)。
  また、得たとしても、ネガティブな効果につながることも多い。
  たとえば、事業をはじめるにあたって、助成金を受けることができる。これはいい。しかし、そうすることによって、「価格は○円でサービスすること」といった事業にダイレクトに影響する規制が求められる、とか。
 ・世の中からも反発をくらう。
  すごく喜んでくれる人がいる一方で、反発をする人も多い。
  事業場のリスク面をあげつらう人、「いけすかない」という感情的な反応を示す人、既得権をおかされないようにジャブを打ってくる人、などなど。

一般的な仕事でも似たようなことがあると思いますが、通常のビジネスよりもかなり前面に社会的理念を打ち出している社会起業でも、そんな風に反応される、というのはあらためて驚いた。


■とはいえ、着実に「理解し、育む」ことに協力してくれる人が集まってくる
 新しいことをはじめると、前述のように「ネガティブ」な反応が集まってきやすいと思う。
 しかし、もう一方で、ポジティブな反応もある。社会起業家という道を選ぶということは、それを求める強い声がどこかにある、それを確信しているからはじめられるのだと思う。そしてそれは事実で、そういう人たちの一部が気づいてくれて、心強い反応と支援をしてくれる。
 しかも、そうした流れはどんどんと輪を広げ、支援者の数と種類(お客さんだけでなく、スタッフ(特に、プロフェッショナル))も集まってくれるようになる。
 それは、「社会的意義による魅力」によって引き寄せられてくるのだと思う。もちろん、それをはじめた人を中心に、関わる人たちすべてに魅力を感じるのもあるのだと思う。
 あとは、当事者がいかに強く思いを込められるか、にある。「相手が巻き込まれたいと思うほどの何か」があるか、それを伝えられるか、共感までつなげられるか。


■自分が育ったら、まわりを育てることに目が向く
 たくさんの支援を受けて育って得られたこと(ノウハウ)を、関係者たちに還元するようになる。
 もちろん、喜んで提供するとは限らない。むしろ、最初の段階は、だまし討ちみたいなこともあると思う(書籍の中では、行政からはそういう対応を受けたことが記されている)。
 しかし、社会起業を選択した場合、そうしたものもポジティブに捉えることもできる。もともとの問題意識が解消すること(理念・ビジョン)が大事なのだ、と考えられるのだ。ビジネスの場合、勝ち負けが付きまとうと思うけど、社会起業の場合、利益の追求に必ずしも縛られない判断ができるのではないかと思う。
 ※もちろん、少なからず利益はあげないと事業自体を継続できなくなるので、考慮しなくて言い訳ではない。ただ、「株主利益を最優先」とすることからは、離れていいのではないかと思う。


と書いていて長くなりましたが。本書を通して、「自分が成し遂げたいことを見つけて、実行し、達成するまでの流れ」について、イメージが少し具体化したような気がします。


(2)書評
 良本だと思います。
 ただ、ちょっとインパクトが大きい。本書の前半部では、成功と失敗を繰り返し、試行錯誤による思考・行動と出会いと運によって壁を乗り越えてゆく姿が描かれている。一方で、後半に入ると、だんだんとスケールが大きくなっていき、かつ「行動するんだ!」「そうすれば何か生まれていくんだ」というメッセージ性が強くなってくる。末部になってくると、「行動しないと何も変わらないんだ」「それでいいのか?」という印象も受けるようになってくる。
 このメッセージ自体は悪いと思わない。が、ちょっとアクが強くなっていくので、読後感がきついかもしれない。ある程度の心構えができている人はいいけど、本書を読むことで「一歩を踏み出そう」となれる準備まで至っていない人は、「行動しなくては・・・」というあせりや不安感が混ざってしまう気がする。
 このあたりは、著者が想定する読者とのマッチングになってくると思うので、やむなしなのかもしれません。
 ただ、そういう読後感であっても、得られるものは十分にあるものだと思います。
 社会起業家に興味が無くても、読んでみる価値があります。


(3)キーワード
 当たり前のように地域貢献、心の構え、価格以上のお金を払ってくれるお客さん、国にパクられて一人前、世の中を変えるのは「気づいた個人」