武豊

先日放送されたNHKの「プロフェッショナル」。僕は競馬はまったくやらないのだけど、武豊はさすがに知っている。何がどうすごいのかは説明できないけど、実績のすごさは多少なりとも理解できるつもり。

こういうクラス(=真のプロフェッショナル)にいる人たちには、いくつも共通点があると感じていた。この武豊の仕事振りを紹介していた放送をみていて、あらためて思った点について振り返っておこうと思う。


■小さなことをきっちりと
武豊が競走馬に乗るとき、必ず「鐙(あぶみ)」に足を乗せるという(吊り輪みたいな形をしているところ)。 足をぶらつかせて跨ることは競走馬にとって負担になるので、やらないらしい。

度を越えて仕事ができる人は、こういう気遣いも半端なく徹底しているのだと思う。仕事に対する真摯な姿勢から生まれるものなんじゃないだろうか。イチローは「バットをグラウンドに置くとき、グラブを下に敷く」という話も同類の意識なのだと思う。
※もちろん、そことは別な場面で、グラブも大切に手入れしている。

自分が成果を残すために欠かせないパートナーであればこそ、最高の手入れをして付き合う。また、そういった手入れに見合う最高のパートナーとの出会えるための手間は惜しまない。だからこそ、それに見合う手入れを続けることができるのでもあると思う。

自分のパートナーに対して、細心の注意を払って接するという姿勢を持ち続けること。このあたり、ついついおろそかにしてしまいがちだ。そうしたところから、崩れていくのだと思う。いつでもできる当たり前のちょっとしたことを、いつもきちっとやり続けることが大切。


■目指す姿に近づきたい
武豊がインタビュー中に「もっとうまくなりたい」「いい騎手になりたい」といっていた場面があった。「だから、人の成績とかもあまり気にならない。誰々より勝ちたいとか、そんなの全然ない」と。この言葉も僕にはとてもずっしりと響いた。いまさらながらに「なるほどなぁ〜」と感心したのだった。

勝負の世界に生きる人であれば、少なからず「他人」のことが気になってしまうものだと思う。勝ちか負けがつけられるように、相手と比較され続けるのだから。でも、武豊にしてみると、「そうではない」という感覚しかない様子がとても印象深く残った。

また、海外遠征を続けてきた経験からも伝わってくるものがある。日本では考えられないような待遇を受けるのにも関わらず、挑戦し続けていたのだ。「もっとうまくなりたい」という思い。自らの力不足を痛感させられても、理不尽に感じられる扱いを受けても、折れない。苦しいけれども、「どうしてこうなるのか」「どうすればいいのか」を必死で考える。この繰り返し。

武豊がそういう感覚をもてるのはなんでだろう、と考えてみた。すぐに思い浮かんだのは、「いい騎手」という目指す姿がきちっと見えているからだろう、と。どれくらいクリアに見えているのかはわからないけど、今の自分からみて「どの方向にいけばいいのか」「どれくらい離れているのか」が分かるくらいには描けているのだと思う。

目指したい姿が見通せれば見通せるほど、「まわりとの比較」からは離れていけるんじゃないかと思う。僕なんかはまだまだ甘っちょろい段階にいるので、とても武豊のような境地にはたどりつけていません。でも、こうした武豊のコメントと姿を通して、なんとなく感触が変わった感じを持つことができたような気がする。


■いつもどおりにやる
もうひとつ思ったのは、彼らはどんなときでも特別なことという意識にとらわれずに(とらわれないように)過ごしていること。

放送の中では、武豊凱旋門賞(世界最高峰のレース。武豊も初めて参加してから14年間のうち4回しか経験していない)にでるときの様子が映されていた。レース前日のインタビューでは、武豊はこう答えていた。

「プレッシャーがあっても無くても、本当に一緒なんですよ。目指すものも、出したい結果も、やることも」

僕は小心者なほうなので、ちょいちょい緊張する。舞台が大きくなればなるほど緊張するし、日常に近ければ近いほど気が緩んでしまう。もちろん、武豊も緊張はするだろうし、気を緩める場面もあると思う。

でも、それは僕の感覚とは質が違うはず。僕のは「自分の意志とは無関係に心身が反応する」ものであって、武豊のそれは「結果を出すために、そういう制御をかけている」という感じなのだろう、と。

大きな舞台で緊張することは、良い面もあると思うし、已む無しという感じも含めて、まだ納得感を得やすい。しかし、不要に気を緩めてしまうのは、良くない。これをどこまでなくすことができるかが、プロとの格差に直結しているような気がする。




このほかにも、たくさん思い至ることがあった。かなりのエッセンスが詰め込まれた内容だったと思う。

最後に、もうひとつだけ、印象に残った言葉を。

「圧倒的に数の多い負けを無駄にしない」

競馬はほとんどの騎手は負ける(18人レースであれば17人は勝てない)。なので、負けた後にすぐに切り替えができなければいけない(武豊は「これができないと、騎手には向いてない」といっていた)。一方で、勝ち負けに関わらず、自分のレースの出来が最善であったかどうか、振り返ることも大切。

この意識、今まで以上に(かなり)強く持って過ごして行こうと思う。おそらく、いまの僕にとって、とても重要な感覚であるはず。